夏に流行するウイルス感染症対策 〜手足口病・プール熱など〜
1. はじめに
夏は高温多湿の環境が続き、食中毒や熱中症のリスクが注目されますが、実はウイルス感染症もこの時期に流行のピークを迎えます。代表的なものが、手足口病(Hand, Foot and Mouth Disease:HFMD)、プール熱(咽頭結膜熱:Pharyngoconjunctival Fever:PCF)です。
これらは特に子どもを中心に流行しますが、大人にも感染することがあります。感染すると発熱や発疹、結膜炎などで数日〜1週間の欠勤を要することがあり、職場の稼働にも影響を与えます。
本稿では、それぞれの特徴や感染経路、職場での予防策について解説します。
2. 手足口病とは
原因ウイルス
- コクサッキーウイルスA16(CVA16)
- エンテロウイルス71(EV71)
- その他のエンテロウイルス
症状
- 潜伏期間は3〜5日
- 手のひら、足の裏、口の中に水疱性発疹
- 発熱は軽度(38℃未満が多い)だが、EV71の場合は高熱・神経症状を伴うこともある
- 口内の発疹が痛みを伴い、飲食が困難になることもある
経過
通常は3〜7日で自然軽快しますが、まれに髄膜炎や脳炎などの合併症を起こすことがあります。
3. プール熱(咽頭結膜熱)とは
原因ウイルス
- アデノウイルス3型・4型・7型 など
症状
- 潜伏期間は5〜7日
- 高熱(38〜39℃)、咽頭痛、結膜炎(目の充血・痛み・涙目)
- 全身倦怠感、食欲低下
経過
発熱は5日程度続くことがあり、全身症状が強いため日常生活に支障をきたします。結膜炎が治るまでは感染性が残るため、学校保健安全法では主要症状が消えてから2日経過するまで出席停止とされています。
4. 感染経路
夏のウイルス感染症は、主に以下の経路で広がります。
- 飛沫感染
咳やくしゃみで飛び散った唾液・鼻水を吸い込む。
→ 会話・くしゃみ・咳の距離で感染。 - 接触感染
感染者の手、タオル、ドアノブ、机、共有備品を介して感染。
→ 職場では共有物品(電話、キーボード、会議室机)からも拡がる。 - 経口感染(糞口感染)
特に手足口病では、便の中にウイルスが長期間(2〜4週間)排泄されます。
→ トイレ後の不十分な手洗いが原因に。 - 水を介した感染
プール水中でのアデノウイルス感染。塩素消毒が不十分な場合に発生。
5. 職場でのリスクと影響
- 保育園・学校に通う子どもの親を介して職場へ持ち込まれるケースが多い
- 感染力が強く、潜伏期間中でも拡がる可能性がある
- 複数人が同時期に発症すると業務停滞のリスクが高い
- 発症後の欠勤が長引く(特にプール熱は発熱・結膜炎が長期化しやすい)
6. 職場での予防対策
(1) 手洗いの徹底
- 流水+石けんで30秒以上
- アルコール消毒はエンテロウイルスに効果が限定的なため、石けんによる物理的洗浄が必須
- トイレ後・食事前・鼻をかんだ後は必ず洗う
(2) 咳エチケットの励行
- マスク着用(特に発熱・咳症状があるとき)
- 咳やくしゃみはティッシュや肘で覆う
(3) 共有物品の衛生管理
- 電話、キーボード、ドアノブ、会議テーブルの定期的な消毒
- タオル・食器の共用禁止
(4) 感染拡大防止のための勤務調整
- 発熱や全身症状がある場合は無理せず休養
- プール熱は学校保健安全法に準じて、解熱+主要症状消失後2日経過まで出勤見合わせが望ましい
(5) トイレ衛生の強化
- 便座・レバー・ドアノブの消毒
- ハンドドライヤーよりペーパータオルを推奨
7. 家庭での予防ポイント
- 子どもとの密な接触を避ける(発症時)
- タオル・食器・寝具の共用を避ける
- オムツ交換時は手袋+手洗いを徹底
- 高温多湿を避け、室内を換気
8. まとめ
手足口病やプール熱は、夏に特に多く見られる感染症であり、大人も発症し業務に支障をきたす可能性があります。
特に、職場での集団発生を防ぐためには、「手洗い・消毒・咳エチケット・勤務調整」の4本柱が不可欠です。
感染症は「もらわない・うつさない」両方の視点が重要です。
この夏は熱中症だけでなく、ウイルス感染症対策にも目を向け、安心・安全な職場づくりを進めましょう。
参考文献(webサイトリンク)
- 厚生労働省「手足口病」 ― 手足口病の症状、感染経路、流行時期、予防対策について。
- 厚生労働省「咽頭結膜熱(プール熱)」 ― 症状・潜伏期間・出席停止期間・感染経路について。
- 国立健康危機管理研究機構(国立感染症研究所)咽頭結膜熱/手足口病情報 ― 各病気の臨床像・疫学・予防のポイントなど。
- 東京都感染症情報センター「手足口病」「PCF(咽頭結膜熱)」ページ ― 都道府県単位での流行情報と感染対策。