焙煎所は、静かな時間がない。
豆が入って、熱が入って、風が回って、袋が並んで、段ボールが積まれる。
何もしていないように見える時間でも、床には細かい粉が落ちる。

ある日、店主さんは片付けのつもりで、床をサッと掃いた。
軽く、いつもの感じで。ほうきで。

ふわっと、粉が浮く。
光の筋に、細かい粒が舞うのが見える。
その瞬間から、喉がいがらっぽい。目も少ししょぼしょぼする。

「換気が弱いのかな」と思う。
でも実は、これ、換気の問題だけじゃない。

粉じんは、発生させるより“舞い上げる”ほうが簡単です。


焙煎所の粉じんは、工程のあちこちにいる

焙煎所で舞いやすいのは、ざっくり2種類。

  • 粉(微粉):豆や挽いた粉、袋詰め周辺で出る
  • チャフ(薄皮):焙煎中〜冷却、排気まわりで出る

どちらも軽い。
軽いから、床に落ちても終わらない。
落ちたあとに、動線・風・清掃でまた浮く。

ここで困るのは、大きく2つです。
1つは 身体。咳・喉・目(その場の不快と、じわじわの負担)。
もう1つは 堆積。積もってからが本番です。

そして、堆積が「安全上の問題」になりやすいのがチャフです。
軽いから舞うのに、隅に溜まって堆積もする。
焙煎所は熱源があるので、火災リスクに直結します。


粉じん対策の基本:掃除で粉を増やさない

掃除って地味だけど、焙煎所はここで差がつきます。

ここが分かれ道です。

粉じん対策は、発生源対策・換気と、舞わせない清掃を組み合わせる。

換気や集じんの話はもちろん大事。でも、導入コストもかかる。
一方、掃除のやり方は、明日から変えられる。

そして、ここが罠。

“掃除したつもり”で、粉を広げていることが多い。


NG例:やりがちで、粉が増える3つ

1) ほうきでサッと掃く

粉をまとめたようで、空中に撒いている。
終わった後に喉がいがらっぽい/鼻をかむと黒い時は、要注意。

2) エアで吹く(ブロワー/コンプレッサー/強い送風)

見た目は綺麗になる。
でも粉は「消えた」んじゃなくて、移動しただけです。

3) 乾いた布で拭く

拭けたようで、粉をこすって舞わせる。
細かい粉ほど、これが起きる。


では、どうする? “舞わせない掃除”の3原則

やることは、難しくありません。原則は3つ。

原則1:乾かした状態で動かさない

粉は軽い。乾いていると浮く。
まず湿らせてから扱うと舞いにくい。
※びしょ濡れにしない。“湿り気”で十分。

水を使える場所か、設備の取扱説明書で確認します。電気設備や水を使えない箇所には湿式清掃を適用しません。

原則2:吸って回収する(かき集めない)

かき集めると、どうしても空気に乗る。
吸って回収が基本になる。

注:吸って回収する場合
熱いチャフやくすぶる焦げ片は吸引しません。冷却後も、可燃性粉じんへの適合・集じん性能をメーカーに確認した機器と方法を使います。家庭用掃除機を一律に使えるわけではありません。

原則3:頻度を決める(“積もる前”に回す)

粉じんは、ためるほど厄介になります。
「週末にまとめて」より、毎日3分のほうが勝つ。


焙煎所向け:最低限の清掃ルール(これだけで変わる)

清掃を“善意”に任せると、続きません。
ルールを薄く固定します。

1) 毎日(閉店前)3分:床の動線だけ

  • 動線=人が踏むところ
  • 踏むほど舞うので、ここだけは毎日
  • 「掃くな。吸って。」で統一

2) 週1回:排気まわり/冷却まわりを点検(見つける日)

  • 目的は「きれいにする」より “溜まりポイント”を見つけること
  • 堆積や詰まりを確認したら、取扱説明書に従って安全に停止・清掃します。火災につながる堆積を月末まで放置しません。
  • 見つけた場所は、メモ1行で残す(例:冷却周りの隅/排気ダクトの付け根 など)

3) 月1回:写真1枚で基準を固定+しっかり掃除(落とす日)

  • 週1点検で「ここが溜まりやすい」と分かった場所を、定点(同じ角度)で撮る
  • 目的は「汚れ方が悪化してないか」を確認すること(新品みたいにキレイ?じゃない)
    • 先月:うっすら → 今月:もっさり=増えてる(掃除の頻度・やり方が負けてきたサイン)
    • 先月:うっすら → 今月:同じくらい=回ってる(最低限の運用が効いてる)
  • 清掃頻度はメーカー指定と堆積状況から決めます。月1回という固定間隔で安全を保証するものではありません。

合言葉:点検で見つけた堆積は、必要な時点で安全に除去する。


「咳が出たら測る」では遅いのか?

遅いです。
というより、咳が出る頃には、現場はすでに“慣れ”が進んでいます。

  • 今日の咳は「体調かな」で流れる
  • 明日の咳は「いつものこと」になる
  • そして、掃除が雑になる

ここで勝つ方法は、測定の前にあります。

粉を舞わせない運用を先に固定する。

測定やばく露評価は、症状が出る前から必要性を検討します。法令上必要な測定を省略したり、症状が出るまで待ったりしません。
でも、舞わせない掃除は、困りごとが出る前にやれる。


忙しい時ほど、これを守って!(清掃編)

忙しいと、掃除は「はやく雑に」になりやすい。
そのとき、これを思い出してほしい。

「掃くな。吸って。」
「吹くな。散らすだけ。」

はやく片付けたい時ほど、これが一番はやい。


明日やること(3つ)

  1. NGを1つやめる(ほうき/エア/乾拭きのどれか)
  2. 毎日3分の動線清掃を固定(閉店前にセットする)
  3. 排気・冷却まわりの点検と清掃を、メーカー指定と堆積状況に合わせて組み込む

※本連載は、複数の現場の“あるある”を詰め込んで一般化し、分かりやすさのために再構成した架空の設定です。

参考:NIOSH:コーヒー製造作業者の呼吸器リスク。咳や息切れが続く場合は、作業との関連を含めて医療機関に相談してください。