労働衛生コンサルタントの頭の中シリーズ
第0回:「労働衛生コンサルタントの頭の中」を公開してみる理由
「労働衛生コンサルタントって、実際にはどんなことを考えながら仕事をしているんですか?」
資格を取ったばかりの方や、企業の経営者・総務担当の方から、たまにこんな質問をいただきます。
テキストや講習会では、法律や制度の仕組みは学べますが、
- 現場でどんな順番で物事を見ているのか
- どんな“違和感アンテナ”を張っているのか
- 経営者・現場・働く人、それぞれの気持ちをどう整理しているのか
といった「頭の中身」は、なかなか見えません。
正直に言うと、私自身も試験勉強をしていた頃、そして合格した直後に、同じ壁にぶつかりました。
「理屈は分かった。で、実際の現場では どう考えて、どう動けばいいの?」
そのモヤモヤに答える形で始めてみるのが、この
「労働衛生コンサルタントの頭の中シリーズ」です。
この第0回で分かること
この序章では、次の4つをお伝えします。
- なぜ「頭の中」を言葉にして公開しようと思ったのか
- 筆者自身の立ち位置(産業医/労衛コンとしての経験値)
- 誰に向けて、どんなスタンスでこのシリーズを書くのか
- 実在事例ではなく「フィクション寄りのケース」を使う理由
そして、
「これは“コンサル依頼のための攻めた営業記事”ではなく、
まずは事業場自身が動けるようにするための“地図”づくりである」
というスタンスで、このシリーズを進めていきます。
1.なぜ今、「頭の中」を言葉にしようと思ったのか
私は現在、
- 放射線診断専門医
- 産業医
- 労働衛生コンサルタント
という3つの立場で仕事をしています。
中小企業の安全衛生診断や、産業保健・健康経営に関する相談を受けるなかで、
現場に出ていくとき、頭の中ではいつも
- 法令違反はないか
- データは何を示しているのか
- 経営としてどこまで踏み込めるか
- 働く人にとって、これは本当に「安全・安心」といえるのか
といったことが同時並行でグルグル回っています。
ただし、ここで正直にお伝えしておきたいことがあります。
私は、労働衛生コンサルタントとして登録はしているものの、
いわゆる「厚労省80条ライン」のガチガチな安全衛生診断を、
何十社もこなしてきた“ベテランコンサル”ではありません。
今のところの実務の中心は、あくまで 産業医として企業と関わることです。
その中で、
「もし今のこの会社に、労働衛生コンサルタントとして本気で診断に入るとしたら、
自分はどんな順番で、何を見て、どう考えるだろう?」
と、頭の中で“コンサルタント脳”を回しながら現場を見ている、という立場です。
そこで、このシリーズはこんなコンセプトで進めていくことにしました。
本シリーズは、
産業医として現場の企業と関わりながら、
労働衛生コンサルタントの視点で「もし本気で診断に入るならどう考えるか?」を整理していく試みです。
つまり、
- 「第一線のコンサルタントが語る“武勇伝集”」ではなく
- 「産業医として現場に立っている一人の医師が、
労衛コンの視点で自分の頭の中を整理してみたログ」
に近いものです。
このシリーズは、
- 自分自身の思考プロセスを一度きちんと言語化して整理する
- それを公開することで、誰かの「イメージがつかめない」状態を少しでも減らす
という、半分は自分のため、半分はこれから関わる方々のための試みです。
そしてもうひとつ、大事にしたい前提があります。
「無知はコスト」だから、できるかぎり“知っている人”を増やしたい。
すべてを外部の専門家に丸投げするのではなく、
まずは事業場自身が、基本的な見取り図と考え方を持てるようにしたい。
このシリーズは、「労衛コンにどんどん依頼してください」という営業ではなく、
“知っている人”を増やすための地図づくりに近いイメージです。
そのうえで、
- 「ここまでは自社でやれる」
- 「ここから先は、ひとりで抱え込まずに外部を頼っていい」
という線引きも、あわせて見えてくるといいな、と思っています。
そしてもう一つの、個人的な理由。
「やりたいとは思っているけれど、腰が重い」自分の背中を、
少しだけ強制的に押すためでもあります(笑)
2.誰に向けて書いているのか
このシリーズのいちばんのターゲットは、
中小企業の経営者・人事労務・総務担当の方です。
「うちに労働衛生コンサルタントを入れると、何をしてくれるの?」
「どんな場面で相談していいのか、いまいちイメージがわかない」
そんな感覚を持っている方に、
- “相談していいシーン” と
- “自社で手を打てるシーン”
の両方のイメージを持っていただくことを、第一の目的にしています。
そのうえで、次のような方々にも読んでもらえたら嬉しいと思っています。
① 産業医・保健師・衛生管理者など、産業保健に関わる方
- 「労衛コンにもう一歩踏み込んだ視点って、どんなもの?」
- 「経営や組織にどう翻訳していくのかを知りたい」
そんなニーズに対して、現場での“思考のクセ”を共有します。
② これから労働衛生コンサルタントを目指す方/取ったばかりの方
- 「口述試験は受かったけれど、実務のイメージがつかない」
- 「安全衛生診断って、現場ではどう進めるの?」
という不安に対して、“現場の雰囲気”と“頭の動かし方”を共有していきます。
「これは唯一の正解ではないけれど、こういう枠組みもある」
という、一つの参考例になればと思っています。
③ 少し先の未来の自分
将来、このシリーズを読み返したときに、
「ああ、自分はこの頃こう考えていたんだな」と振り返るための、
ちょっと長めの“業務日誌”のような意味合いも込めています。
3.このシリーズで話すこと・話さないこと
守秘義務や、他の専門家の領域への配慮も大切にしたいので、
ここで「話すこと」と「話さないこと」を整理しておきます。
このシリーズは、特定の企業・個人に対する法的・医療的な助言ではなく、
一般的な情報提供と、私個人の経験・勉強内容に基づく考え方の共有を目的としています。
「これが唯一の正解」
というよりは、
「こういう考え方の枠組みもある」という一つの参考例として読んでいただければ幸いです。
● 話すこと(お見せする部分)
- 現場に入ったとき、最初の30分で何を見て、何を聞いているか
- 経営者/総務/現場/働く人、それぞれの立場を、どう頭の中で整理しているのか
- 法令・ガイドライン・社内ルールなど、複数の基準をどう「優先順位づけ」しているのか
- 事故・ヒヤリハット・長時間労働・メンタル不調などの、“燃えそうなところ”の見つけ方
- 集団分析やアンケート結果などのデータを見たときの、最初の問いの立て方
- 報告書や提案書をまとめる時に、どんな構成を頭の中で組んでいくのか
- 「うまくいったケース」だけでなく、
「こうしておけばもっと良かった」と感じた反省点・葛藤 など
つまり、プロセスと考え方の部分を、できるだけオープンにしていきます。
ここを知ってもらうことで、
「まずは自社でここまで整理してみよう」
と一歩目を踏み出しやすくなる、そんな内容を目指しています。
● 話さないこと(意図的に避ける部分)
一方で、次のようなことはこのシリーズでは扱いません。
- 実在の企業名・個人名が特定できるような具体的なエピソード
- 内部情報・機微情報に関わる詳細(業績数字・人事情報など)
- 他士業(社労士・弁護士・税理士など)の専門領域に踏み込みすぎる法律・税務判断
- 個別の医療相談にあたる内容(診断・治療方針など)
- 特定の企業や個人を批判することを目的とした話題
ここまでをまとめると、
「こういう場面で、労働衛生コンサルタント“的な頭の使い方”をすると、こんな景色が見える」
という抽象度を少しだけ上げた形でお届けしつつ、
その考え方を事業場側でも使える“道具”として共有する、というスタンスです。
4.実在の事例ではなく「フィクション寄りのケース」を使う理由
このシリーズでは、具体的な場面をイメージしていただくために、
- レストランA社の店長
- 製造業B社の工場長
- 事務所C社の総務担当 …など
いくつかの架空の企業・登場人物を用いる予定です。
実在の企業を特定できる事例ではなく、
複数の経験や公表資料などから要素を組み合わせた「フィクション寄りのケース」を用いています。
「この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。」
というお決まりの一文を守るためでもありますが、それだけではありません。
フィクション寄りのケースを使うことで、
- 守秘義務や個人情報を確実に守れる
- 実際の複数の事例を“いいとこ取り”して、典型的なパターンとしてお見せできる
- 読者が自社の状況に当てはめて、「うちならどうだろう?」と考えやすくなる
といったメリットがあると考えています。
たとえば、こんな“よくある悩み”の場面を題材にします。
「残業時間が増えてきたけれど、どこまで行くと“危ない”のか分からない」
「メンタル不調で休職者が出たが、再発させないために何を見直せばいいのか分からない」
実際には、
- A社のエピソードの中に、私がこれまで経験した複数の案件の要素が混ざっていたり
- 少し話を単純化して、「考え方の筋道」が見えやすくなるようにしていたり
します。
ですので、
「どこかの誰かの具体的な失敗談」
というよりは、
「どこの職場でも起こり得る“よくあるパターン”を、少しデフォルメしたもの」
として読んでいただければと思います。
5.このシリーズの進め方と、“ゆるいゴール”
■ 各回のだいたいの形
各回の記事は、おおむね次のような構成で進めていく予定です。
- 冒頭のワンシーン
- 架空の企業での、社長・総務・現場からのひと言
- あるいは、私が現場で感じた「小さな違和感」
- そのとき、労衛コンの頭の中で何が起きているか
- どんな問いを立てているのか
- どの順番で状況を整理しているのか
- 実際にとった行動・提案の方向性
- すべてではなく、代表的なステップや考え方
- 読者への「一歩だけ」
- 「このテーマについて、まずここだけ押さえておくと良い」というポイント
- 経営者・総務視点、資格勉強中の人向け視点など
- 次回の予告
- 「次は○○の場面の話をします」という、ささやかなチラ見せ
■ ゆるく目指しているゴール
このシリーズが続いていった先に、
ゆるく目指しているゴールは、いくつかあります。
- 事業場自身が「自分たちで考えるための地図」を持てるようにすること
- 「何を知らないのか分からない」という状態を少しでも減らしたい
- 基本的な見取り図と考え方を共有することで、
“無知のコスト”を下げることにつながればと思っています。
- 企業側の「相談していいタイミング」が見えやすくなること
- 「このくらいのことでも相談していいんだ」と思ってもらえるライン
- 逆に、「ここまでは自社でトライできる」というライン
この両方が少しクリアになると、動きやすくなります。
- これから労衛コンを目指す人・取ったばかりの人の“孤独”を少し減らすこと
- 実務を学ぶ機会が少ない中で、
「あ、こういう考え方をしている人がいるんだ」と感じてもらえたら嬉しいです。
- 実務を学ぶ機会が少ない中で、
- 私自身の頭の中をアップデートし続けること
- 公開するからこそ、自分の考え方の偏りや弱点も見えてきます。
- 読んでくださる方との対話を通じて、内容をバージョンアップしていければと思っています。
6.おわりに ― 第1回は「何をしている人なのか」から
第0回(序章)では、
- なぜこのシリーズを始めるのか
- 筆者自身の立ち位置
- 誰に向けて書くのか
- 何を話して、何は話さないのか
- フィクション寄りのケースを使う理由
- これからの進め方とゴール
そして、
「これは“コンサル依頼のための攻めた営業記事”ではなく、
まずは事業場自身が動けるようにするための“地図”づくりである」
というスタンスをお話ししました。
次回、第1回では、
「労働衛生コンサルタントって、そもそも何をしている人なのか?」
というところから、ゆっくりと開いていきたいと思います。
- 産業医との違い
- 中小企業診断士など、他の「〇〇コンサルタント」との違い
- 日々の仕事の流れや、1案件の流れ
などを、「頭の中シリーズ」らしく、
プロセス中心でお伝えしていく予定です。
どうぞ、気楽なお茶のお供くらいのつもりで、
お付き合いいただければ嬉しいです。
続きはこちら
この連載の第1回では、
「労働衛生コンサルタントって、そもそも何をしている人なのか」
「産業医や他のコンサルと、どこが違うのか」
といった基本的なところを整理しています。

