— 上司の「気づく・声かけ・つなぐ」を1週間で定着させる実務ガイド —
- はじめに:なぜ“いま”、ラインケアか
- ラインケアとは(1分でわかる要約)
- セルフケアとラインケア(役割分担とはみ出し防止)
- ラインケアの要点(30秒でわかる)
- 1. 「気づく」——早期サインの見取り図
- 2. 「声かける」——30秒スクリプトと地雷回避
- 3. 「つなぐ」——面談・制度への導線を“1クリック”に
- 4. 1週間アクションプラン(10月10日起点の“ミニ・キャンペーン”)
- 5. 上司向け5分ミニ研修アジェンダ(朝礼・オンラインで可)
- 6. よくあるQ&A(現場の“つまずき”解消)
- 7. チームで回すミニ・チェックシート(上司用/週1回)
- 8. 社内掲示・チャットで使えるショートメッセージ
- 9. 情報の取り扱い(最低限の原則)
- 10. まとめ:完璧より“早い小さな一歩”
- 付録:30秒スクリプト
- 参考文献・参考リンク
はじめに:なぜ“いま”、ラインケアか
10月は環境変化や日照時間の低下が重なり、睡眠不足や集中力低下、モチベーション低下が出やすい時期です。『世界メンタルヘルスデー(10月10日)』を“声をかけるきっかけ”に設定し、職場で早期にサインを見つけ、対話し、必要な支援につなぐ体制を整えましょう。本記事は、最小工数(1週間)で実行できるラインケアの具体策を示します。
ラインケアとは(1分でわかる要約)
- 定義:ラインケアは、直属の上司が日常のマネジメントの中で部下の健康状態に気づき、適切に声をかけ、必要に応じて産業医・人事などへつなぐ一連の実務。
- 目的:不調の早期発見と悪化予防、働きやすい環境の調整。
- 範囲:上司が行うのは業務上の配慮と支援の導線づくりまで。診断・治療・評価はしない(専門家につなぐ)。
- 基本姿勢:評価者モードを一時停止し、「事実→気持ち→要望」を偏らずに聴く。
ラインケアで“できること/できないこと”
できること:業務量・期限・優先順位の再設計/会議や連絡の運用改善/面談導線の提示
できないこと:医学的な診断や指示/本人同意のない個人情報共有/同僚との比較やレッテル貼り
覚え方:ラインケアは「観察(気づく)→対話(声かけ)→橋渡し(つなぐ)」の3手で完結。
セルフケアとラインケア(役割分担とはみ出し防止)
メンタルヘルス対策は三層で回します。
- セルフケア(本人):体調・睡眠・ストレスの自己管理と早めの相談
- ラインケア(上司):気づく・声かけ・つなぐ+業務配慮
- 事業場(会社)によるケア:制度・環境・教育・相談窓口・就業配慮の仕組み
お互いの“境界線”
- セルフケア:自分の状態を伝える・助けを求めるまで。無理を隠さない。
- ラインケア:仕事の設計を整える・専門家につなぐまで。原因追及や詮索はしない。
- 会社のケア:制度の提示・公平運用・安全配慮。不利益取扱いの禁止を明文化。
セルフケアを後押しする上司の一言
「困りごとは一人で抱えないでください。早めに共有すれば業務設計で助けられることが多いです。相談は評価と切り離して扱います。」
ラインケアの要点(30秒でわかる)
- 気づく:いつもと違う変化(行動・表情・成果・勤務状況)を捉える
- 声かける:評価や助言よりも、まず事実と気持ちを受け止めて聴く
- つなぐ:本人の同意のもと、産業医・人事・外部窓口へ早めに導線を引く
1. 「気づく」——早期サインの見取り図
行動・パフォーマンスの変化
- 遅刻・欠勤・早退の増加、残業時間の偏り
- ミスや確認漏れの増加、メール返信・会議発言の減少
- 同じ作業に極端に時間がかかる、こだわりが強すぎて進まない
言動・感情のサイン
- 口数が減る/逆に苛立ちやすい、冗談がなくなる
- 「眠れない」「食欲がない」「集中しづらい」などの訴え
周辺に出る兆し
- チーム内の小さな衝突、ヘルプ依頼の増減の極端化
- 体調不良での在宅・早退申請が続く
ポイント:サインは1つで判断しない。小さな変化が複数・継続していないかを見る。
2. 「声かける」——30秒スクリプトと地雷回避
安全・肯定の枕詞
「最近ちょっと忙しそうに見えたので気になりました。時間を少しもらってもいいですか?」
30秒スクリプト(観察→共感→選択肢)
- 観察の共有(事実) 「ここのところ残業が続いていて、会議でも発言が少ないように感じました。」
- 共感・安心の表明 「無理が続いていないか心配です。ここでは評価や査定の話はしません。」
- オープン質問+沈黙を待つ 「いまの負担感やつまずきは、どんなところにありますか?」
- 選択肢提示(助言ではなく“選べる支援”) 「①業務量の調整、②締切の再設定、③産業医・人事への相談、どれから始めましょう?」
NG! 避けたい言い回し(善意でも逆効果)
- 「みんな頑張ってる」「根性で乗り切ろう」→比較・精神論はNG
- 「原因は◯◯でしょ?」→決めつけ・短絡
- 「大丈夫?」(連呼)→“耐えて当然”の圧になりがち
コツ:評価者モードを一時停止。まず聴く→次に伴走→最後に制度につなぐ。
3. 「つなぐ」——面談・制度への導線を“1クリック”に
社内ポータルサイトへの記載項目例
- 産業医・保健師面談:〈申請フォームURL〉(所要3分/秘密保持)
- 人事・労務相談:〈窓口メール or Teams/Slackチャンネル〉
- 外部支援(EAP・公的窓口):〈連絡先・受付時間〉
- ≪リンク運用のチェック≫
社内トップページに固定表示/スマホから1タップで開ける/問い合わせ先が1画面内に収まる
就業配慮の例:一時的な業務量軽減、期限延長、静かな作業場所、在宅併用 等
同意の原則:個人情報は本人の同意範囲で共有する。産業医面談・保健師面談の記録は医療情報と同様に厳格管理。
4. 1週間アクションプラン(10月10日起点の“ミニ・キャンペーン”)
- Day 1(10/10):朝会で「聴く姿勢を宣言」。上司向けに本記事とスクリプトを配布。
- Day 2–3:各メンバーと5〜10分、1on1を軽く実施(雑談ベースでOK)。
- Day 4:困りごとを「2軸(業務量×裁量)」で見える化→“今すぐできる調整”を1つ。
- Day 5:産業医・人事の導線を再告知。匿名ミニアンケート(3問/1分)を流す。
- Day 6–7:チームで小さな改善を1つ宣言(会議短縮、締切見直しなど)。
簡易KPI:1on1実施率/導線クリック数/ミニアンケート回収率/“小さな改善”の数
5. 上司向け5分ミニ研修アジェンダ(朝礼・オンラインで可)
- 今日のゴール(30秒):サイン→声かけ→つなぐ
- NG例とOK例(2分):3つの地雷回避/観察→共感→選択肢
- ロールプレイ(2分):Aさん役・上司役で30秒スクリプト
- 最後のひと押し(30秒):リンク固定/1on1の予約入れ
ロールプレイは台本読みでOK。照れを越えると現場で自然に出ます。
6. よくあるQ&A(現場の“つまずき”解消)
Q1:何を聴けばいい?
A:事実→気持ち→要望の順番が安全。「どこが負担?」「どれから減らす?」と選択式に。
Q2:プライベートには踏み込みたくない
A:家庭事情の聴取は不要。仕事上の困りごとに限定し、制度の範囲で調整。
Q3:深刻そうだが、本人が拒む
A:まずは短期の業務配慮を提案し、再提案の期限を決める(例:1週間後)。緊急時は安全優先で人事・産業医に即相談。
Q4:記録は必要?
A:評価に影響しないメモ(事実・本人の希望・合意事項・期限)に限る。共有は必要最小限+本人同意。
Q5:受診や面談は就業時間扱い?
A:社内規程に従う。扱いを明確化し、不利益がない旨を周知。
7. チームで回すミニ・チェックシート(上司用/週1回)
- 今週、全員と5分以上の対話を行った
- 「観察→共感→選択肢」で評価を保留して聴けた
- 業務量/期限/役割のどれか1つを調整した
- 産業医・人事の導線を1回以上案内した
- 匿名ミニアンケートの回収率が60%以上
- チームの“小さな改善”を1つ宣言して実行した
8. 社内掲示・チャットで使えるショートメッセージ
10/10は世界メンタルヘルスデー。
今週は「気づく・声かけ・つなぐ」を実践します。
迷ったら30秒スクリプト→〈面談申請リンク〉。
困りごとは一人で抱えない、チームで整える。
9. 情報の取り扱い(最低限の原則)
- 個人結果・面談内容は本人のみまたは本人同意の範囲で共有。
- 産業医面談の記録は医療情報として厳格管理。
- 受検や相談の有無で不利益取扱いをしないことを明文化し、全社に周知。
10. まとめ:完璧より“早い小さな一歩”
ラインケアは特別な面談術ではなく、観察→共感→選択肢→導線の繰り返しです。世界メンタルヘルスデーを起点に、1週間で小さく回し、月内に「1部署1アクション」へつなげましょう。継続は文化になります。
付録:30秒スクリプト
「最近、残業が続き気になりました(観察)。
無理が重なっていないか心配です。ここでは評価の話はしません(安心)。
いま負担が大きいのはどこですか(オープン質問)。
①業務量の調整 ②締切の再設定 ③産業医・人事への相談、どれから始めましょう(選択肢)?」
参考文献・参考リンク
- World Health Organization: World Mental Health Day(WHO公式)
10月10日の趣旨・キャンペーン情報の総合ページ。世界保健機関 - World Mental Health Day 2025(WHO)
今年のテーマと参画方法。社内告知文の背景説明に。世界保健機関 - 厚生労働省:世界メンタルヘルスデーとは(解説・関連リンク)
日本語での概要整理。社内掲示用の根拠提示に便利。厚生労働省 - 厚生労働省:ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策
制度の目的・概要・周辺資料への入口。社内FAQからのリンク先に最適。厚生労働省 - 厚生労働省:ストレスチェック制度 関係法令等
指針・通達など一次情報のリンク集(制度運用の根拠)。厚生労働省 - 労働者の心の健康の保持増進のための指針(PDF)
いわゆる「メンタルヘルス指針」。4つのケア(セルフ/ライン/事業場内/事業場外)の基本が明記。厚生労働省 - こころの耳:eラーニング「15分でわかるラインによるケア」
上司向けの実践教材。この記事の「観察→共感→選択肢→導線」と親和性が高い。こころの耳
※本記事は社内利用を目的とした一般的なガイドです。個別の健康状態・就業配慮は、産業医・主治医の意見を踏まえて判断してください。
