労働衛生コンサルタントの頭の中シリーズ
第1回:労働衛生コンサルタントって、何をしている人?
「労働衛生コンサルタントって、正直よく分からないんですよね……」
そんな声を、経営者や総務の方から時々いただきます。
1.ある総務担当者の“検索の夜”
ショートドラマ風に、よくあるワンシーンから始めてみます。
月末の夜。
小さな事業場の総務担当として、労務も人事も安全衛生も一手に担っているAさんは、
一人で残業しながらパソコン画面を眺めています。「ストレスチェック やり方」「衛生委員会 回し方」「長時間労働 対応」……
気づけば、ここ数日の検索履歴はそんな言葉ばかりになっていました。画面の片隅には、労働基準監督署から届いた文書。
それとは別に、社内の若手社員からは
「最近、残業が増えてしんどいです」
という相談がチラホラ届き始めています。「このままだと、メンタル不調者が出てもおかしくないなあ……」
「でも、何から手をつけたらいいんだろう」そんなことを考えながら、ふと検索結果の中に
「労働衛生コンサルタント」
という言葉を見つけます。「コンサルタント……? なんかすごく専門的で、料金も高そう。
今すぐ頼むべきなのか、まだ自分たちでやれることがあるのか……」Aさんはブラウザのタブをいくつも開いたまま、
「とりあえずブックマークだけしておこう」とブラウザを閉じました。
※この連載の全体の考え方やスタンスは、第0回(序章)でお話ししています。
👉 第0回(序章)「これは『攻めた営業記事』ではありません」
このシリーズは、こうしたAさんのような方に向けて、
- 「そもそも、労働衛生コンサルタントって何をしている人なのか」
- 「どこまでなら自分たちで手を打てそうか」
- 「どこから先を外部に頼っていいのか」
というあたりを、“地図”のように整理してみる試みです。
2.労働衛生コンサルタントとは?「何の専門家」なのか
まず、公式な定義を一言で言うと、
「事業場の安全衛生について、専門的な診断や指導を行う国家資格のコンサルタント」
です。
ざっくり噛み砕くと、役割はこんな感じです。
- 法令・通達・ガイドラインなどの“ルールの森”を読み解く
- 職場の実態(作業・環境・働き方)を現場で見て・聞いて・測る
- その会社の規模や業種、経営状況に合わせて
「どこが危ないか」「どこから手をつけるか」を整理し、提案する
つまり、
「法律と現場と経営」のあいだをつなぐ“通訳”
のような役割だ、とイメージしてもらうと近いと思います。
3.産業医との違いは? ― 個人を見るか、組織全体を見るか
よく聞かれるのが、産業医との違いです。
もちろん、産業医が労働衛生コンサルタント資格を持っていることもありますし、
逆に、労衛コンが産業医業務に深く関わる場合もあります。
このシリーズでは、理解しやすくするために、あえて役割を分けて考えます。
ごく大ざっぱに言うと、
産業医:
社員一人ひとりの健康や働き方に向き合う、「個人対応の専門家」です。
「この人はいま、どのくらい働くのが安全か」
「この方の復職はどんなステップで進めるか」
といった、個別の相談・面談・事例を中心に、継続的に関わる役割がメインになります。
労働衛生コンサルタント:
会社全体のデータや職場の様子を俯瞰して、
「組織としてどこに無理が集まっているか」
「どんなパターンでトラブルが起きているか」
を整理する、「集団・組織単位の専門家」です。
個人のケースを見るというよりも、複数の部署や多くの社員の状況をまとめて眺めて、
職場全体の“クセ”や構造を見つけていくイメージです。
同じ「健康・安全」を扱いますが、
- 個人に寄り添う軸足が強いのが産業医
- 組織全体の傾向や仕組みを見る軸足が強いのが労働衛生コンサルタント
と捉えていただくと、イメージしやすいかもしれません。
4.他の「〇〇コンサルタント」とどう違うのか
最近は、世の中にいろいろな「〇〇コンサルタント」がいます。
- 中小企業診断士
- 社会保険労務士(労務コンサル)
- 人事コンサルタント
- 組織開発コンサルタント など
それぞれに強みがありますが、
労働衛生コンサルタントが特に力を発揮しやすい領域は、次のあたりです。
① 「健康・安全・衛生」に関するリスクの洗い出しと優先順位づけ
- 長時間労働
- ストレス・メンタル不調
- 有害物質・粉じん・騒音・暑熱環境
- 作業手順・安全衛生教育・安全衛生管理体制 など
これらを、法令違反かどうかだけでなく、
- 会社としてのリスク(事故・休職・離職・訴訟 など)
- 働く人の安全・健康に与える影響
- 今後の人材確保・採用への影響
といった観点から、「ここがボトルネックです」と整理していくのが得意分野です。
② 「健康・安全」の話を、経営の言葉に翻訳する
たとえば、
「長時間労働が多いです。是正しましょう」
だけだと、経営者から見ると
「いや、忙しいから残業してるんだけど……」
で終わってしまうこともあります。
そこに、
- どれくらいの水準だと法令的に“黄色信号”“赤信号”なのか
- 事故・メンタル不調・離職が起きると、どんなコストが発生するのか
- 逆に、改善すると
「生産性」「採用」「イメージアップ」などにどう効いてくるか
といった観点を加え、
「だから、まずはこの部署の残業時間を、
○ヶ月かけてここまで下げる計画にしませんか?」
という形で、経営判断に乗せやすい“訳し方”をするのも大事な仕事です。
5.実際の仕事の流れはどうなっているのか?
ここまで読むと、Aさんの頭の中には
「なんとなくイメージは分かった。でも、具体的に何をしてくれるの?」
という疑問が浮かんでいるかもしれません。
ここでは、あくまで一例として、
「典型的な診断の流れ」をざっくり三段階で描いてみます。
第1段階:情報を集める(聞く・見る・読む)
- 会社の概要(業種・規模・組織図など)
- 就業規則・安全衛生管理体制の資料
- 労災・事故・ヒヤリハットの記録
- 健康診断・ストレスチェックの集団分析 など
これらをもとに、
「この会社の“燃えそうなところ”はどこにありそうか?」
という仮の地図を頭の中で描きます。
同時に、現場を見ることも重要です。
- 実際の作業現場を歩いてみる
- 働いている人の表情や雰囲気を感じる
- 休憩スペース・更衣室・出入口なども含めて“動線”を追ってみる
こうした、数字だけでは見えない現場の雰囲気を確かめる作業も、診断の一部です。
第2段階:リスクを整理し、優先順位をつける
集めた情報をもとに、
- 法令違反や、違反に近いグレーゾーンはないか
- 長時間労働・メンタル・ヒューマンエラーなどの
「じわじわ効いてくるリスク」はどこか - すぐに手を打つべき「緊急度の高いポイント」はどこか
- 中長期で改善を進めるべき「構造的な課題」はどこか
を整理していきます。
このとき、頭の中では、
「この会社にとって、今いちばん“意味のある一歩”はどこか?」
という問いがグルグル回っています。
第3段階:経営者・現場と「地図」を共有し、具体策を考える
最後に、診断結果を
- 報告書
- スライド
- 口頭での説明
などの形でまとめ、経営者や総務、場合によっては現場の管理職とも共有します。
ここで大切なのは、
- いきなり細かい改善策から入らない
(チェックリストを羅列するだけでは、現場は動きません) - まずは 「今の職場は、ざっくり言うとこういう“地形”になっています」
という全体像(地図)を共有する - そのうえで、 「最初の一歩として、ここから手をつけませんか?」
と優先順位をつけた提案をする
ことです。
この「地図」をつくるところまでが、
労働衛生コンサルタントの“基本セット”の仕事だと考えています。
6.このシリーズでお伝えしたいこと(第1回のまとめ)
第1回では、
- 労働衛生コンサルタントは、
「法律と現場と経営のあいだをつなぐ“通訳+地図づくり担当”」であること - 産業医とは役割が重なる部分もあるが、
個人対応に軸足を置く産業医と、組織全体を俯瞰する労衛コンという違いがあること - 実務では、
- 情報を集める
- リスクを整理し、優先順位をつける
- 「地図」として共有し、最初の一歩を提案する
という流れで動くことが多いこと
を、ざっくりお話ししました。
このシリーズは、
「コンサル依頼をガンガン取るための営業記事」ではなく、
事業場自身が動けるようにするための“地図”づくりです。
ですから、
「いきなりコンサルタントに頼むべきかどうか」
を考える前に、まずは
- 自社の安全衛生のことで
「何が分かっていて、何が分かっていないのか」 - 労衛コンに相談するとしたら、
「どんなテーマで話を聞きたいのか」
を整理する材料として使っていただければうれしいです。
7.今回の「一歩だけ」
最後に、この第1回を読んでくださった方への「一歩だけ」を。
自社の安全衛生・健康管理に関して、
「ちょっとモヤモヤしていること」を3つ書き出してみてください。
- 長時間労働のこと
- メンタル不調者のこと
- 事故・ヒヤリハットのこと
- 安全衛生委員会が形骸化していること など
テーマは何でも構いません。
「これって、誰に相談したらいいんだろう?」
と感じていることを3つ書き出すだけでも、
次回以降の内容が、きっと“自分ごと”として読みやすくなるはずです。
8.次回予告
第2回では、Aさんのような総務担当の方と一緒に、
「現場に行ったら、最初の30分で何を見ているのか」
というテーマで、
- どこから歩き始めるのか
- どんな会話を交わしているのか
- 何を“違和感のサイン”として拾っているのか
を、頭の中の実況中継風にお届けする予定です。
お時間のあるときに、またお付き合いいただければ嬉しいです。
あわせて読みたい
この連載の背景や、どんなスタンスで書いているかについては
第0回(序章)でお話ししています。
