労働衛生コンサルタントの頭の中シリーズ|第1回
――会社の安全衛生を「仕組み」として見る外部参謀
このシリーズについて
この記事は「労働衛生コンサルタントの頭の中」シリーズの第1回です。会社の安全衛生を担当者任せにせず、仕組みとして整えるために、労働衛生コンサルタントがどのように見て、整理し、会社側の判断につなげているかを扱います。
産業医はいる。
健康診断も実施している。
衛生管理者もいる。
衛生委員会も開いている。
それでも、安全衛生の課題を前にしたとき、
「これは誰に相談すればよいのか」
「会社として、どこまで決めればよいのか」
「産業医に聞く前に、何を整理しておくべきなのか」
と迷うことがあります。
そのような場面で名前が出てくることがあるのが、労働衛生コンサルタントです。
ただ、労働衛生コンサルタントという資格名を聞いても、実際に何をしている人なのかは分かりにくいかもしれません。
法律上の説明をすれば、労働衛生に関する専門的な知識に基づいて、事業場の衛生について診断し、指導する専門職です。
けれども、会社側が実務で知りたいのは、もう少し具体的なことではないでしょうか。
自社の安全衛生体制のどこを見てくれるのか。
産業医や衛生管理者とは、どう関わり方が違うのか。
何を相談すればよいのか。
会社側で決めることと、専門職に相談することを、どう分ければよいのか。
第0回では、会社の安全衛生を担当者任せで止めないために、会社側が考えるための地図を持つことが大切だとお伝えしました。
今回の第1回では、その地図づくりに関わる専門職として、労働衛生コンサルタントの役割を整理します。
ひと言でいえば、労働衛生コンサルタントは、会社の安全衛生を「点」ではなく「仕組み」として見る外部参謀です。
資格名だけでは、役割は見えにくい
労働衛生コンサルタントという名称は、少し硬く聞こえます。
しかも、産業医や健診機関のように、会社が日常的に接する機会が多いとは限りません。
そのため、会社側から見ると、何を頼める人なのかが分かりにくい面があります。
「産業医とは違うのか」
「衛生管理者と何が違うのか」
「社労士に相談する話とは別なのか」
「健康診断の結果について相談する人なのか」
「現場を見て、指摘事項を出す人なのか」
こうした疑問が残ったままだと、労働衛生コンサルタントという名前を知っていても、実務でどう使えばよいのかが見えてきません。
もちろん、法律上の定義は大切です。
ただし、会社の実務では、定義を知っているだけでは足りません。
大切なのは、その専門職が、会社の中でどのような課題を整理し、どの判断を助けてくれるのかを理解することです。
労働衛生コンサルタントは、個別の出来事だけを見るのではなく、作業環境、作業方法、健康管理、教育、記録、役割分担、管理体制などが、会社の中でどのようにつながっているかを見ていきます。
つまり、職場の安全衛生を「点」ではなく「仕組み」として見る専門職です。
会社側から見ると、何を手伝ってくれる人なのか
会社の安全衛生には、さまざまな業務があります。
健康診断を実施する。
健診結果を確認する。
必要に応じて受診勧奨を行う。
産業医面談を調整する。
衛生委員会を開催する。
職場巡視を行う。
記録を残す。
一つひとつは個別の業務です。
しかし、実務上の難しさは、それぞれの業務をどうつなげるかにあります。
健康診断の結果を、次の対応にどうつなげるのか。
産業医面談で出た意見を、会社の判断や職場での対応にどう反映するのか。
衛生委員会で出た話題を、単なる議事録で終わらせず、改善につなげるにはどうするのか。
現場で気づいた違和感を、誰が受け止め、どの記録に残し、どのタイミングで見直すのか。
労働衛生コンサルタントが関わる意味は、ここにあります。
会社の中にある情報を集める。
その情報のつながりを見る。
どこに無理が集まっているかを整理する。
会社側で決めることと、専門職に相談することを分ける。
実務として回る形に落とし込む。
このように、会社の安全衛生を「仕組み」として整えるための診断と助言を行うのが、労働衛生コンサルタントの大きな役割です。
産業医や他の専門職とは、競合するのではなく役割が違う
労働衛生コンサルタントの役割を考えるとき、産業医や衛生管理者、社会保険労務士、健診機関などとの関係を整理しておくと分かりやすくなります。
ただし、ここで注意したいのは、役割を単純に分けすぎないことです。
たとえば、
「産業医は個人を見る人」
「労働衛生コンサルタントは組織を見る人」
と説明されることがあります。
大まかなイメージとしては分かりやすいのですが、実務上は少し単純化しすぎです。
産業医も、従業員個人の就業上の配慮や健康管理に関わるだけでなく、職場環境や会社の体制について助言することがあります。
衛生委員会や職場巡視を通じて、会社全体の安全衛生に関わる場面もあります。
一方で、労働衛生コンサルタントは、個別従業員の診断や治療方針を決める立場ではありません。
主に見るのは、事業場の衛生管理体制です。
会社として安全衛生をどう管理しているか。
健康診断や面談後の対応が仕組みとして回っているか。
衛生委員会や記録が、実際の改善につながっているか。
作業環境や作業方法に無理がないか。
社内の役割分担が曖昧になっていないか。
こうした点を、外部から整理します。
産業医、衛生管理者、社会保険労務士、健診機関には、それぞれ重要な役割があります。
労働衛生コンサルタントは、それらと競合する存在ではありません。
むしろ、会社側から見て、誰が何を担い、どこで連携し、どこから先は会社として判断するのかを整理する立場です。
「指摘する人」ではなく、「整理する人」として使う
労働衛生コンサルタントというと、外部から来て問題点を指摘する人、というイメージを持たれるかもしれません。
もちろん、必要な指摘を行う場面はあります。
法令上の確認が必要なこともあります。
安全衛生上、放置しない方がよい課題を伝えることもあります。
ただ、それだけでは十分ではありません。
問題点を指摘するだけなら、会社側には「やることリスト」が増えるだけです。
それでは、担当者の負担がさらに増えてしまうことがあります。
本当に必要なのは、課題を会社の実務に落とし込むことです。
どれを優先するのか。
誰が担当するのか。
いつまでに行うのか。
どの記録に残すのか。
産業医や他の専門職には、何を相談するのか。
経営側が決めるべきことは何か。
労働衛生コンサルタントは、法律と現場と会社の判断をつなぐ役割を担います。
法律だけを見て、現場に合わない理想論を並べるのではない。
現場の事情だけを見て、必要な対応を曖昧にするのでもない。
経営側の都合だけで、安全衛生上の課題を後回しにするのでもない。
それぞれの間にあるズレを整理し、会社として現実的に動ける形に整える。
その意味で、労働衛生コンサルタントは「指導する先生」というよりも、安全衛生領域の外部参謀として使う方が、役割が見えやすくなります。
労働衛生コンサルタントが共有する「地図」
労働衛生コンサルタントが会社に提供するものは、単なる指摘事項の一覧ではありません。
もちろん、改善すべき点を示すことはあります。
しかし、それだけでは会社の実務は動きません。
大切なのは、会社側が次に何を考え、誰が判断し、どこから手をつければよいのかが見えることです。
その意味で、労働衛生コンサルタントの仕事は、会社の安全衛生に関する「地図」を共有することに近いといえます。
現在地はどこか。
どこに無理が集まっているのか。
どの課題から手をつけるべきか。
会社側で決めることは何か。
専門職に相談すべきことは何か。
地図があれば、すべての問題が一度に解決するわけではありません。
それでも、どこに向かえばよいのかが見えるだけで、会社の実務は動きやすくなります。
安全衛生を担当者の個人技で回すのではなく、会社として続けられる仕組みにしていく。
そのために、労働衛生コンサルタントは情報を整理し、優先順位をつけ、会社側と地図を共有します。
おわりに:会社の安全衛生を、仕組みとして見る
労働衛生コンサルタントは、会社の代わりにすべてを決める人ではありません。
また、現場の事情を知らずに正論だけを並べる人でもありません。
法律、現場、健康管理、記録、役割分担をつなぎ直し、会社が次に何を判断すればよいのかを整理する専門職です。
担当者任せになっている業務を、会社として続けられる形に整える。
そのための外部参謀として関わります。
安全衛生は、専門職を入れれば自動的に回るものではありません。
一方で、会社側だけですべてを抱え込む必要もありません。
大切なのは、
「ここまでは自社で考える」
「ここから先は専門職に相談する」
「この判断は会社として決める」
という線引きを持つことです。
労働衛生コンサルタントは、その線引きを一緒に整理する専門職です。
第2回では、労働衛生コンサルタントが現場に入ったとき、どのような視点で職場を見始めるのかを整理します。
安全衛生というと、まず「危ない場所を探す」イメージがあるかもしれません。
もちろん、危険箇所や法令上の確認点を見ることは大切です。
ただ実際には、それだけではありません。
次回は、作業の流れ、人の動き、記録の残り方、管理職と現場の距離感、担当者に負担が集中していないかなど、現場を見るときの最初の視点を整理します。
シリーズ内の前後記事
- 前の記事:第0回「なぜ「労衛コンの頭の中」を公開するのか」
- 次の記事:第2回「現場で最初に見るのは、「危ない場所」だけではありません」
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