同じ様式の先にある、必要な対応
本社では進んでいる健診後の対応が、小さな支店では止まっている。担当者が少ないから簡略化してよいのか。それとも本社と同じ手順が必要なのか。目的を保ちながら、仕事の受け持ち方を変える場面を考えます。
まだ出していない支店
本社総務の菅野は、健診後の進捗表を開いた。結果を受け取ったあと、医師への意見聴取に必要な資料を準備し、対応につなぐための表だった。
東支店だけが、資料の提出待ちになっている。
「健診は、みなさん受けていますか」
支店長の島田へ電話すると、受診は済んでいるという。結果も順に届き始めていた。
「勤務の情報を、支店でまとめてから送る手順ですよね。まだ一人、出張から戻っていないので」
本社の手順には、部門の担当者が資料をそろえ、責任者が確認して総務へ送るとある。本社では総務が不足を追う。けれど、八人の東支店では、島田が営業、勤怠の確認、外出中の連絡も受け持っていた。
島田は、全員分をそろえてから、担当者欄と責任者欄を確認するつもりだった。別々に送ると、本社で分からなくなると思っていた。
菅野は、全員分がそろうまで待つ必要があるかを確かめた。様式を配ったときには、支店にも本社と同じような担当者がいるつもりで説明していた。

集める人が、勤務の全てを知っているわけではない
島田は、その日、支店に戻っていた佐伯と書類の準備を確かめた。佐伯の結果は会社が定めた経路で届いていたが、医師へ渡す仕事の情報がそろっていない。
島田が勤怠を見て勤務の概要を書こうとすると、佐伯が言った。
「先月の応援、あちらで終わってから、こちらの返答もしていました」
応援先から戻る時間は分かっていた。でも、戻ってから何をしていたか、島田が毎日隣で見ていたわけではない。予定表の訪問先だけでは、一日の仕事を説明しきれなかった。
島田は、勤務の記録と、佐伯が受け持つ作業を確認した。必要な情報を医師へ渡す準備を、空いた時間に全部一人で終わらせるのは難しい。
「これ、本人から本社へ話してもらってよいんでしょうか」
菅野へ尋ねると、菅野も即答を避けた。仕事の情報を聞くことと、結果をどこへどう送るかは分けて考える。健康情報の取扱いと、医師へ依頼する経路を確認する必要がある。
支店の佐伯にも、誰が何を受け取り、何のために使うかを説明しなければならなかった。
本社で受け持てること
菅野は、本社の保健師へ相談した。会社は、支店の健診後対応も医師へ依頼できる体制にしていた。ただ、その前の資料準備を、支店ごとに完結させようとしていた。
保健師は、医師に意見を求めるために必要な情報と、今の東支店で止まっている箇所を確認した。支店長が医学的な判断を済ませてから提出する必要はない。勤務情報は、本人と現場の責任者から確認し、本社側で不足を確かめられる。
菅野は、本社の総務責任者へ相談した。
「支店の担当者をもう一人置いてもらう前提より、資料準備の一部を本社で引き受けたいんです」
総務責任者は、東支店の対応から進め方を変えることにした。全員分の一括提出を待たず、準備できたものから社内の決めた経路で進める。本社は依頼に必要な情報の確認と医師への手配を受け持つ。支店には、現在の仕事を説明することと、実施する対応の相談に加わってもらう。
菅野は、佐伯の欄を「東支店・資料未提出」から、「帰社後の業務情報を本人と支店長に確認中」へ書き換えた。次は本社が資料の不足を確認し、医師への依頼を進める。島田には、支店側でまだ確かめる内容と、そのために取る時間が分かるように連絡した。
本社からの連絡時刻も、島田と相談した。支店の人が戻る夕方には、本社側で別の打合せが入ることがあった。電話を何度も掛け直すより、本人の勤務に合わせて確認できる時間を先に設ける。その時間を取ることも、島田の仕事の予定へ入れた。
支店へ返すこと、本社でも変えること
佐伯と島田は、本社の保健師と仕事の状況を確認した。勤務の記録だけでは分からなかった、応援後の仕事も伝えた。医師は必要な情報を確かめ、佐伯の勤務について意見を示した。
菅野は、仕事の調整に必要な範囲でその内容を島田と本人へ伝え、会社の判断を担う人につないだ。健康情報の経路は、社内の取扱いに沿って確かめた。
佐伯とも案を相談し、会社は、応援先で仕事をした日に帰社後の返答も佐伯へ集める分担を変えることにした。島田は、支店で受け持てる仕事と、応援を頼む本社の部門に受け持ってほしい確認を分けて伝えた。
「支店の表だけ直しても、応援先からそのまま連絡が来ますね」
島田が言った。
菅野は、本社部門の担当者とも、連絡先と渡す時刻を調整した。島田の提出を待っていただけのときには、本社側の頼み方が帰社後の仕事を増やしていることに気づかなかった。
支店から、本社へ返す情報
次に佐伯が応援へ出た日、帰社後の確認は、決めた本社の担当者へ送られた。島田は、実際に分担を変えられたことと、佐伯の勤務の状況を菅野へ伝えた。
菅野は、その情報を保健師にも返した。医師へ依頼するまでの準備を本社が引き受けても、その後の仕事の状態は、支店で確かめて返してもらう必要があった。
残っていたほかの資料も、そろった分から本社の確認へ進めた。進捗を扱う担当者には、不足する資料と次に確認する相手が分かるようにした。詳しい健診結果を支店の一覧へ広げる必要はなかった。
島田は、手順の変更について菅野へ聞いた。
「本社と違うやり方でも、よかったんですね」
「必要な対応は、同じように進めたいです。そのための受け持ち方は、支店の仕事に合わせて考えましょう」
菅野は、次の支店の進捗を開いた。同じ様式が戻ってきたかだけではなく、誰に確認し、どの対応がまだ残っているかを見るようになっていた。
本社へ資料を送って、終わりにしない
東支店→本社
仕事の情報
本人・支店長が現地の仕事を説明。本社は不足を確認し、医師へ手配
本社→東支店
実施する対応
必要な条件と会社の判断を返し、支店で受持ちを調整して実施
東支店→本社
実施後の状況
仕事と勤務の状況を返し、保健師への報告と次の確認へ
本社の応援依頼の部門も、連絡先と分担を変える
自分の職場で考えるとき
健診後の必要な医師の意見聴取や就業上の措置は、社内様式をそろえるだけでは進みません。医師が意見を述べるための仕事の情報、会社の判断、現場での実施をつなぎます。[1] 本社で集約する場合も、現地で働く人の仕事を確認できることが大切です。
事業場の規模や実態によって、産業医の選任などの取扱いは異なります。本社に産業医がいれば支店も自動的に担当されるとは限らず、支援の範囲と役割を確認します。産業医の選任義務がない小規模事業場では、地域産業保健センターなど利用できる支援もあります。利用条件と提供される内容は窓口へ確認します。[1・2]
本文で変えたのは、会社独自の一括提出や資料準備の受け持ちです。必要な対応や期限を省略してよいという例ではありません。健康情報の経路や権限も、社内の取扱いに沿って確かめます。[3]
講話では、「そろえたい目的と、そろえなくてもよい方法はどこか」を考えてみてください。現地に任せること、本社で引き受けること、その後に現地へ戻す対応を具体的にたどれます。
参考資料
- 厚生労働省 健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針。医師への情報提供と措置の決定・実施、産業医の選任義務がない事業場の支援を参照。
- 労働者健康安全機構 地域窓口(地域産業保健センター)。小規模事業場に対する健康相談等の支援を参照。
- 厚生労働省 労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針。取扱う者の権限、取扱いの方法と範囲を参照。