使われていない用紙を残すか迷ったとき、作られた理由と、今その目的を誰がどう確かめているかをたどります。

返ってこない用紙

総務の吉田は、月末の回収箱から用紙を出した。「机と椅子の確認」と書かれた紙は、ほとんど戻っていなかった。

一年前、事務室を共用席にした。使う席は日によって変わる。それまでは社員名と席番号が決まり、毎月、机と椅子を確かめた紙を総務へ出していた。

今も古い用紙には「自分の席番号」とある。吉田は、誰の分が未提出なのか、一覧を作ろうとしてやめた。戻った紙に書かれていたのは、前に固定で使っていた席の番号だった。

「もうなくしてもいいんじゃないですか」

同僚に言われて、吉田もそう思った。けれど、この用紙を作った総務主任の牧野は、簡単にはうなずかなかった。

「不具合があってから作ったものです。使われないから、やめますでは心配です」

吉田は、何の不具合だったかを知らなかった。引き継いだのは、毎月配って回収する仕事だけだった。

不具合を知るためだった

牧野が、当時の連絡を探した。

椅子の調節がうまくできず、座る位置が合わないまま使った人がいた。本人は故障なのか使い方の問題なのか分からず、相談も遅れた。そこで、使う人が気づいたことを総務へ伝え、設備担当が確認するために用紙を作ったのだった。

吉田は、用紙にある「椅子の高さ」「机の下の空間」の項目を読んだ。ただ丸を付けるためではなく、仕事に合わない状態を見つける目的があった。

「それなら、提出を徹底した方がいいですか」

牧野は、昔の席番号の欄を見た。

「今の席で同じやり方が役立つかは、確かめたいですね」

設備担当とも、必要な点検・記録との関係を確認した。この用紙は、会社が独自に作った利用者からの連絡だった。法令上の点検や測定を、この用紙が代わりに済ませているわけではない。そちらの担当と記録は、別に確かめて残す。

吉田は、廃止するなら何がなくなるのか、ようやく説明できる気がした。なくなるのは紙の提出か、不具合を伝える機会か。その違いを見なければならなかった。

共用席の机と椅子を前に、今の使い方と以前の確認方法を話す二人。

毎月一回では追いつかなかった

吉田と牧野は、席を使い始める人に話を聞いた。

「椅子は、来たときに調節していますか」

「低かったら上げます。でも、机は同じなので、全部同じでいいと思っていました」

別の人は、画面が見づらいとき、ノートパソコンごと手前へ寄せていると言った。狭くなった作業面で、マウスを使う場所に困ることもある。用紙の項目を覚えていても、席を替えるたびに書いてはいなかった。

「その椅子、使い方が分からない人がいるんです」

吉田が機能を確かめると、以前の椅子とは調節の操作が違っていた。設備担当に確認してもらい、利用者が実際に操作するところを見た。

固定席で月一回確かめる方法が、そのままでは合わなくなっていた。自分に合わせる調節は、その席を使うときに必要になる。一方、破損や機能の不具合の確認を、使う人の気づきだけに任せることもできない。

吉田は、設備担当が部屋を確認する際、どこを見ているかを聞いた。椅子の状態は確認するが、その日使った人にとって画面が見づらいかまでは分からないという。

「同じ項目を、全員が同じ紙で確かめる必要があると思っていました」

吉田が言うと、牧野は返ってきた用紙を置いた。

「誰も気づかなかったことにするのは避けたい。でも、今の使い方に合わせられますね」

提出を減らして、確認を残す

会社は、従来の月一回の提出をやめることにした。代わりに、共用席を使うときの調節方法を説明し、気づいた不具合を席の番号とともに伝えられるようにする。設備担当による定期的な状態の確認は続ける。

吉田は、最初、用紙を短くして全ての机に置くつもりだった。利用者に見てもらうと、画面の位置と椅子をどう合わせるかが、項目名だけでは分からないと言われた。

「チェックがあれば、確認したことが残ると思ったんですが」

吉田の言葉に、牧野は、前の月の用紙を見せた。丸は付いているが、機能が分からないときに誰へ聞くかは書かれていない。新しい紙を出しても、使う人が判断しきれないところは残る。

「記録が要ることは、目的に合わせて残しましょう。でも、今の席を調節できるかは、使うところでも確かめたいです」

記録をなくすことを目標にするのも違った。吉田は、利用者の確認、担当者の点検、不具合への対応をそれぞれ進める案にした。

そこで、設備担当が操作の説明を行った。牧野は、画面や入力機器、机と椅子を合わせて考えるための公的な資料を用意した。

不具合を連絡する先も、実際に試した。吉田が「総務へ」とだけ書くと、担当が不在の日にどこへ連絡するかを聞かれた。誰かが読んだと分かる受付と、設備担当へ渡す方法を決めた。使い続けてよいか迷う不具合は、勝手に我慢して使わず、担当者へ確認する。

見直した案を主任が承認し、利用者へ伝えた。吉田は、従来の用紙が不要になったことと、確認しなくてよくなったわけではないことを併せて説明した。

提出を減らしても、確認は残す

  • やめたもの

    • 会社独自の席番号入り用紙
    • 月1回の提出
  • 共用席で続けること

    • 使い始めに自分に合わせる
    • 設備担当が点検する
    • 不具合を連絡し、対応する
  • 必要な点検・記録

    • 法令で必要なものは継続
    • 担当と記録を別に確保

丸の数では分からなかった

数日後、一つの席から「画面が見づらい」と連絡が来た。

吉田は、設備担当が見る予定を伝えた。現場で話すと、時間帯によって窓の光が画面に映ることが分かった。画面の位置だけでなく、窓から入る光や座る向きも確認し、使いながら調整することになった。

前の用紙では、全て丸になっていた席だった。別の時間に座る人には、同じ状態ではない。

牧野もその場へ来た。

「前の紙でも、困ったときに伝えてほしかったんです。今は、そのときに届くようになりましたね」

吉田は回収箱を片付けた。来月、未提出を追う仕事はなくなる。代わりに、受付へ来た連絡が設備担当へ渡ったか、使う人へ結果を伝えたかを確認する。

紙の枚数が減ったことだけを、見直しの成果にはしなかった。以前の確認が守ろうとしていたものを、今の仕事でどこに残したか。それを牧野と一緒に確かめられたことが、廃止を決める材料になった。

自分の職場で考えるとき

会社独自のチェックを見直すときは、作った目的、現在の利用条件、チェックで見つかったことへの対応を確かめます。利用者が自分に合わせること、設備の状態を担当者が確かめること、異常を連絡して対応することを、同じ用紙へ無理に集めない方法もあります。

情報機器作業のガイドラインには、機器や机・椅子の調整に加え、日常・定期の点検と必要な改善が示されています。[1] 本文は、その目的に合う自主的な確認方法を変えた例です。法令上の点検・測定・記録などは、それぞれの必要性と実施方法を別に確認します。

使われないという事実だけでは、必要性がなくなったとは分かりません。何を残し、どこへ組み込むかまで確かめる見直しは、継続的な安全衛生活動の考え方にもつながります。[2] 講話では「そのチェックで気づいたことは、今、誰の対応につながるか」を尋ねてみてください。

参考資料

  1. 厚生労働省 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(2021年改正後全文)。「作業管理」「情報機器等及び作業環境の維持管理」を参照。
  2. 厚生労働省 労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針。日常的な点検・改善と見直しを参照。2026年10月11日確認。