PRACTICAL CASE|診断書への対応

「軽作業」を、
自社の仕事内容で考える。

作業内容と調整できる範囲を整理して、産業医に確認する。モデルケースで、相談の準備から対応後までを見ます。

以下は架空のモデルケースです。特定の方への就業判定や、受託実績の紹介ではありません。

モデルケース:診断書に「軽作業が望ましい」

従業員70名ほどの、物流作業を含む事業場を想定します。ある従業員から、主治医の診断書が提出されました。「当面は、軽作業が望ましい」という内容です。本人は勤務を続けたいと考えており、会社も可能な範囲で働き続けられるようにしたいと考えています。

ただ、現場には立ち仕事、荷物の持ち運び、倉庫内の移動、繁忙時間帯の応援、暑い場所での作業など、複数の作業があります。人事労務担当者は産業医に相談しようとしますが、その前に立ち止まります。「軽作業」とは自社では具体的に何を指すのか。どの作業なら続けられ、どの作業は避けるべきか。ここですぐに産業医へ「この人を働かせても大丈夫ですか」と聞きたくなりますが、この聞き方では相談の焦点が広すぎます。本人の病状、現在の作業が健康に与える影響、会社が調整できる作業範囲、本人との合意形成——いくつもの論点が一つの問いに混ざっているためです。

まず、役割の違いを整理する

主治医、産業医、労働衛生コンサルタント、会社。役割は重なる部分もありますが、同じではありません。

関係者主な役割注意したいこと
主治医診断・治療・療養上の注意について医学的に判断する職場の作業内容や人員体制を詳しく知っているとは限らない
産業医働くことを前提に、就業上の配慮や措置について会社に助言する配置や勤務の取扱いを最終決定する立場ではない
労働衛生コンサルタント会社側の情報整理、相談の流れ、記録、役割分担を整理する個別従業員の診断や治療方針を決める立場ではない
会社専門職の意見を踏まえ、職場運用として方針を決める専門職に判断を丸投げしない

主治医の診断書に「軽作業が望ましい」と書かれていても、それだけで会社の対応は自動的には決まりません。主治医は、荷物の重さ、移動距離、暑さ、繁忙時間帯といった職場の作業内容までは詳しく把握していないことが多いためです。

「軽作業」を具体化するために、整理しておくこと

産業医に相談する前に、次を書き出しておくと、相談の焦点がぼやけません。

整理する項目書き出すこと
診断書の記載内容「軽作業が望ましい」以外に、期間や具体的な制限の記載があるか
診断書だけでは分からないこと何をもって「軽作業」としているか、期間の目安など
現在の作業内容と負荷立ち仕事、荷物の持ち運び、暑熱作業など、実際の作業の負荷
会社として調整できる範囲一時的に外せる作業、代替できる作業、配置転換の可否
本人の希望続けたい作業、不安に感じている作業、勤務時間の希望
産業医に確認したいこと上記を踏まえて、就業上どの点に注意すべきか

完璧にそろっていなくても構いません。何が分かっていて何が分からないかを整理すること自体が、相談の最初の一歩になります。

産業医への相談の仕方

整理した情報をもとに、具体的に相談します。たとえば、次のように相談します。

「現在の作業には、荷物の持ち運びと倉庫内移動があります。重量物作業は一時的に外せますが、立ち仕事は完全には避けにくい状況です。主治医からは『軽作業が望ましい』と書かれています。この条件で、就業上どのような点に注意すべきでしょうか」

このように相談できると、産業医の助言を会社の実務に活かしやすくなります。令和8年4月から、労働施策総合推進法に基づく「治療と就業の両立支援指針」により、事業主が治療と仕事の両立支援に必要な措置を講じることが努力義務になりました。指針では、産業医等の意見を踏まえて事業主が対応を決定する、という位置づけが示されています。医師の意見は重要な判断材料ですが、実際にどの作業を続けるか、勤務時間をどう調整するかを決めるのは会社です。

産業医の意見を受けたあと、社内で決めておくこと

相談して終わりにしないことが大切です。たとえば、産業医から「重量物作業と立ち仕事の連続を避け、2週間ごとに状況を確認する」という意見を受けたとします。

ここで、現場から「今の人員では、その配置は難しい」と言われたり、本人の希望と現場の事情がかみ合わなかったりすることがあります。産業医の意見が出ても、それだけで対応が決まるわけではありません。

社内で決めておくことは、次のとおりです。

  • 誰が現場の配置調整を行うか
  • 本人には誰が、いつ、どう説明するか
  • 現場の管理職や同僚に、どこまで共有するか(本人の同意を得たうえで、必要な範囲に絞ります)
  • 産業医の意見と会社の対応を、どこに記録するか
  • 次にいつ、誰が状況を確認するか

ここまで決めて初めて、診断書への対応はその場しのぎではなく、次に同じような相談が来たときにも使える形になります。

よくある質問

就業上の措置は、誰が決めるのですか?

会社(事業者)です。令和8年4月から努力義務となった「治療と就業の両立支援指針」(労働施策総合推進法第27条の3)でも、産業医等の意見を踏まえて事業主が対応を決定する、という位置づけが示されています。医師の意見は重要な判断材料ですが、実際に決めるのは会社であり、本人と十分に話し合ったうえで進めることが求められます。

産業医がいない場合、診断書への対応はどうすればよいですか?

医師の意見を聴く相談先としては、外部の医師や、地域産業保健センター(常時50人未満の事業場向け、無料)があります。社内の役割分担や記録の残し方など、体制として整える部分は、労働衛生コンサルタントへの相談も選択肢です。医師の意見を聴くことと、体制を整えることは、役割が異なります。

主治医と産業医の意見が違うときは、どう進めればよいですか?

どちらか一方を機械的に優先するのではなく、それぞれが把握している情報(治療方針、職場の作業内容など)の違いを確認し、必要に応じて主治医への情報提供や追加確認を行いながら、本人との話し合いも踏まえて検討します。

こうした対応を、仕組みにするために

診断書への対応が止まる原因は、産業医への相談の仕方だけとは限りません。現場の作業情報が集まらないのか、配慮を実行する調整役がいないのか、社内で誰が決めるかが曖昧なのか。会社によって、整えるべきところは違います。

労働衛生コンサルタントの支援は、こうした対応を支える会社側の体制のどこに無理が集まっているかを見立て、無理なく運用できる役割分担と情報の流れに落とし込むことです。診断書が出るたびに一から対応を考えている、産業医の意見を受けたあとの社内の動き方が決まっていない、という場合は、まず今の体制のどこで止まりやすいかを整理するところから始められます。

次に読むページ