仕事を外す案と、仕事を続けるための案
治療を続ける従業員の負担を減らしたい。一方、現場では、代わりに引き受ける人の仕事が既に増えている。本人の希望と必要な配慮、職場の事情を合わせて、実行できる案を考えます。
外す欄が増えていた
出荷責任者の中村は、翌週の担当表を総務の星野へ見せた。
治療を続けている堀内の受持ちを減らす案だった。堀内本人から会社へ相談があり、主治医の情報も、本人の同意を得て会社が健康相談を依頼している医師に確認していた。勤務の負担を調整し、通院の時間を確保する必要がある。
中村は、堀内の担当から荷物の移動と発送確認を外した。そうすれば配慮になると考えた。ただ、外した仕事の行き先には、同じ二人の名前が何度も並んでいる。
「これ以上は、正直、無理です」
中村は小さな声で言った。
星野は返事に迷った。医師の意見を伝えたときには、中村も必要性を理解してくれた。いまは、その理解を疑われたくないように、表を見ながら理由を説明している。
「二人とも、通常の仕事を持っています。このままだと残る日が増えます」
誰かの担当を減らせば、その分をほかの人が受け持つ。星野も分かっていたが、具体的にどこへ移ったかは初めて見た。
本人が続けたかった仕事
堀内に案を見せると、予想していた返事とは違った。
「発送確認も、全部外すんですか」
「荷物を出すところまで付いてくるので、まとめて替えた方がよいかと」
中村が答えた。
堀内は、担当表の別の欄を指した。送り先の変更や、まとめ買いの注文について、必要な資料をそろえて確認する仕事だった。
「この確認は続けたいです。見る注文が決まっていれば、どこまでやるかも分かります」
仕事を外されるのが嫌で、何でも引き受けたいと言っているのではなかった。商品の扱いをよく知っていて、見通しのつく仕事は続けたい。一方、注文を確かめたあと、その荷物を移し、発送までの問い合わせも受けるなら、途中で離れにくい。
「注文の確認が終わったら、次の人へ渡せるようにしたいです。今は、荷物のこともずっと聞かれるので」
中村は、発送確認をひとまとまりにしていたことに気づいた。注文の内容を確かめることと、その後の荷物を動かし、発送までの相談を受け続けることは、分けて考えられる。
「残せる仕事を、もう少し分けて考えましょう」
星野はそう言った。ただ、本人が希望する仕事なら健康上も問題がない、と決めるわけにはいかなかった。実際の方法や量を具体化して、医師へ確認する材料にする。
二人が引き受けていたもの
中村は、代わっていた二人にも仕事の状態を聞いた。堀内の病状を説明する場にはしなかった。今の分担で、どの時間に何が重なっているかを確かめた。
一人は、荷物の移動へ呼ばれるたびに、自分の梱包を止めていると言った。もう一人は、移動する荷物が決まっていれば受け持てるが、その場で送り先や変更の可否まで聞かれると、自分では答えられないという。
「荷物の分を持つことと、確認の窓口を持つことが一緒になっていますね」
中村が言うと、一人がうなずいた。
「今は、堀内さんがいない時間、分からないことも全部こちらに来るんです」
堀内を外した欄は、表では短かった。実際には、その仕事に付いていた問い合わせまで移っていた。
星野は社長に、新しい案だけでなく、現在の二人の仕事も見てもらった。応援を入れる案はある。けれど、その人がすぐに全ての注文を判断できるわけではない。中村が荷物の移動も判断も毎日受け持つ案では、中村の発注と予定作成が残る。
「堀内さんの仕事を減らす分を、全部そのまま移す前提になっていました」
星野が言うと、社長は、運ぶたびに誰かを呼ぶ必要があるのかと尋ねた。
中村は、出荷の記録を見た。確定した荷物は、検品を終えたものから別々に出荷へ来ていた。すぐ運んでほしいと言われるたびに、梱包担当の二人へ頼んでいる。その受渡しの予定を変えるには、検品側とも相談が必要だった。
運ぶ仕事と、答える仕事
社長は関係する責任者と相談し、確定した荷物の受渡しを、出荷側が担当を確保できる予定に合わせて試すことにした。荷物を安全に置ける場所と量は、現場でも確かめる。予定外の受渡しが必要なときは、作業者を直接呼ぶのではなく、中村が状況を確認する。
堀内の案は、担当する注文を決め、量も含めて調整して確認を続ける形にした。終えた資料は中村へ渡し、そこで受持ちを区切る。荷物の移動は二人のうち一人が担当し、その間に持つはずだった梱包をもう一人へ際限なく重ねないよう、出荷の配分も組み直した。社長は、通院日の受渡しが重なる予定には応援の時間を確保した。
送り先の変更や発送可否などの判断は、中村が窓口となる。運ぶ担当には、どの荷物をどこへ移すかを伝え、注文の変更まで判断させない。中村の予定作成の一部は社長が受け持つことにした。
会社は、この案と実際の仕事の条件を医師へ確認し、必要な意見を踏まえ、堀内と話し合って実施することにした。通院のために勤務を変える日の扱いも、会社の制度と合わせて説明した。担当表だけ渡して、賃金や休暇の扱いを本人に推測させることはしなかった。
星野は、中村に聞いた。
「これなら、ずっと回せると言えますか」
「通院の予定が今分かっている範囲なら。ただ、来月の注文が増えたら同じとは言えません」
実施後に、堀内の仕事の状態と周囲の負担を確認する機会を設けた。病状や治療の変化も含め、必要なところは医師へ相談する。

外す仕事を、ひとまとまりにしない
| 仕事 | 最初の案 | 見直した受持ち |
|---|---|---|
| 注文内容の確認 | 本人の発送確認をまとめて外し、二人へ移す | 会社が担当する注文と量を調整。堀内が確認を続け、終えた資料を中村へ |
| 荷物の移動 | 自分の梱包を持つ二人を、その都度呼ぶ | 一人を運搬担当にし、受渡しの予定を合わせる |
| 注文変更の判断 | 代わる二人にも問い合わせが来る | 中村が窓口になる |
| 残る梱包・予定作成 | 二人の梱包と中村の予定作成も残る | もう一人の梱包に応援。社長が中村の予定作成の一部を受ける |
応援の時間と出荷の配分は、会社が確保する
自分の名前が残った表
最初の通院日、堀内は、担当することにした注文の送り先を確認した。分からないところは営業へ戻し、出荷の手配に必要な情報をそろえた。
検品側から荷物が届くと、担当者が受渡しの予定を見て運んだ。途中で変更の連絡が来たが、その判断まで引き受ける必要はなかった。中村の台へ資料を持っていき、中村が営業と確認する間、ほかの確定した荷物を進めた。
堀内は帰る前、自分が確認した資料を中村へ渡した。担当表も見た。何もない欄にされるのではなく、受け持った仕事が残っていた。
「ここは、終わっています」
そう伝えると、中村が確認した。
「はい。この後の変更は、こちらで受けます」
荷物を運んだ担当者は、途中で自分の梱包へ呼び戻されずに済んだ。もう一人の梱包には、予定していた応援が入った。星野は、この受持ちに必要だった時間と、応援を確保した範囲も、予定していた確認の場で聞くつもりだった。
次の週の表を見た堀内が、小さく言った。
「何をやればいいか分かるのは、助かります」
中村は、自分の名前の横に残る仕事も確かめた。無理だと言ったとき、配慮をやめたかったわけではない。どの仕事を、どんな条件なら受け持てるかを、会社で考えられるようにしたかった。
自分の職場で考えるとき
2026年4月から、治療と就業の両立を支援するための必要な措置は、事業主の努力義務となっています。[2]
治療と仕事の両立支援では、本人の申出や希望を受け止め、主治医や産業医等の意見と、実際の仕事の条件を合わせて対応を考えます。疾病があることだけを理由に仕事を一律に外すのではなく、必要な調整によって働く機会を保つ視点も大切です。[1]
現場の「無理」は、配慮への反対なのか、仕事量や権限の不足なのか、まだ分かりません。何が誰へ移るかを具体的に見ると、勤務の時間、仕事の範囲や量、受け付け方、人員など、会社で検討する対象が見えてきます。本文の案は架空の選択例で、医師の意見を会社の都合で省略してよいという意味ではありません。
必要な配慮と制度の扱いは、本人が見通しを持てるように説明します。実施してからの仕事の状態も確認し、治療や業務の変化に応じて見直します。[1・2]
講話では、「本人の仕事を外したとき、仕事のどの部分が、誰へ移ったか」をたどってみてください。担当表に載る作業と、付いてくる判断や問い合わせを分けると、行き詰まった案を具体的に考え直せます。
参考資料
- 厚生労働省 治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)。本人の申出、必要な医師の意見、就業上の措置の検討・決定を参照。
- 厚生労働省 治療と仕事の両立について。現行指針、関連様式、企業と医療機関の連携資料の案内を参照。