相談を受ける窓口と、状態を評価する人、仕事や費用を決める人は、同じとは限りません。受け付けた相談を、動くところまでつなぐ話です。
総務へ聞けばいいと思っていた
総務の川瀬が昼の打合せから戻ると、机に付箋があった。
「受付の椅子。高さが下がるそうです」
メールには、問い合わせ対応の仕事量について相談したいという連絡も届いている。廊下で会った人からは、体調のことを上司に話す前に聞いてほしいと言われた。
どれも放っておけない。川瀬は、相談を受けるたびに手元へ控えていた。椅子は設備担当へ、体調の相談は社内の取扱いを確かめて産業医への窓口へつなぐ。分かることは自分で進めるつもりだった。
顧客からの問い合わせを担当する関が来たのは、夕方だった。
「窓口にいると、電話と、その後の確認が重なります。一件の確認を終える前に、次の応対が入って。課長には話したんですが、総務にも相談してと言われました」
川瀬は勤務の記録を確認できる。しかし、顧客への回答順を変えることや、他の人へ案件を回すことは決められない。
「課長へ、状況を確認しますね」
関は、少し困った顔をした。
「また同じ話をすることになりますか」
川瀬は、返事の前に椅子の付箋を見た。人から話を聞いて、別の人へ戻しているうちに、自分の机だけが相談の置き場になっていた。

窓口の先が空いていた
翌日、川瀬は関の上司である田村課長に連絡した。
「関さんが、確認の仕事を終えられないと相談されています。何が重なっているのか、現場で確かめてもらえますか」
「相談窓口は総務だと思っていました。こちらでは、必要な仕事を頼んでいるんですが」
川瀬にも、勤怠を見ている以上は自分が引き受けるべきかという迷いがあった。けれど、勤務を記録するだけでは、確認の途中で応対が重なる事情は変わらない。
「記録は確認します。でも、どの仕事をいつ担当するかは、私には決められません。関さんを戻すだけにもしたくないんです」
田村は、午後の担当表を持って来た。
関の仕事には、窓口で答えるものと、後から資料を確かめて返すものがあった。窓口で資料を開いている間にも、次の電話や来客が入る。田村は、確認を別の担当へ回す案を考えたが、その人も電話の当番になっていた。
田村は担当表を見直した。
「担当を変えても、部署の人手が足りないのは同じですね」
関には、誰が次の対応をするかが伝わっていなかった。
川瀬は社内の衛生管理者にも相談した。役員へ説明するために、仕事量と勤務の実態を一緒に確認することになった。関が健康上の相談も希望する場合の連絡先は、本人に別に案内する。
誰の仕事として進めるか
役員との打合せで、川瀬は最初に、いま自分が止めている相談があると話した。
「受け取ったので、自分の責任だと思っていました。でも、私から連絡しただけでは動かせないことがあります」
役員は、田村にも事情を聞いた。
「今の人数で、返答の期限を全部守ることを前提にしているんですね」
田村は、営業が顧客へ約束した回答時期に合わせて確認を頼まれることもあり、期限を変えると営業側にも影響すると答えた。その交渉を担当者だけに任せることはできない。役員は、営業責任者を交えて、返答期限と担当の持ち方を検討する場を設けた。
その間も、関が同じ量を抱え続けることにはしない。田村が、窓口・電話・後から確認する仕事の受持ちを分け、割込みが同じ人へ重ならない配分を決める。川瀬は、実際の勤務時間を照らし合わせ、結果を田村と衛生管理者へ戻す。役員は、部署をまたぐ対応と必要な資源を判断する。
川瀬は、関への説明を田村と一緒に行った。
「田村課長が、仕事の重なりと配分を確認します。私の方では、勤務の実態と相談のつなぎ先を確認します。返答期限の見直しは、役員の打合せへ上げています」
関は担当表を見た。
「確認の途中に電話も来たら、どちらを先に受けるか、課長へ聞いていいですか」
田村はうなずき、重なったときの受け渡し方も確認した。その場で関自身が全てを引き受けるのではなく、重なった応対を誰へ回すか、田村が決める。課長が不在の時間も、同じ判断を関一人へ返さない受け持ちを確かめた。
説明の後、川瀬は役員へ確認した。
「進み具合を聞くことも、全部総務へ集まると、同じところで止まりそうです」
役員は、実施を引き受けた責任者が本人へ状況を伝えることを、部署の仕事として確認した。川瀬は窓口として経過を確かめるが、現場で起きたことを毎回代わりに調べて説明する役ではない。
田村は、担当変更を試した日に関から聞き、次の日の割振りを相談することにした。関が知らない間に、総務と課長のメールだけで対応が進む形にもしたくなかった。
川瀬には、一人で回答したときより説明に時間がかかった。だが、関が同じ話を何度も持ち歩く必要は減らせそうだった。
相談を受けた後、誰が動かす?
総務・川瀬
相談を必要な対応へつなぐ
- 勤務の実態を確認
- 相談のつなぎ先を確かめる
田村課長
現場の仕事を組み替える
- 割込みの実態を確認
- 仕事の配分を調整
役員
部署をまたぐ判断を受ける
- 関係部署を調整
- 必要な時間・人員等を判断
田村課長から関へ、対応の経過も返す
連絡しただけでは閉じない
椅子の件は、設備担当から返事が来た。
不具合を確認し、その椅子は使用をやめた。受付責任者が代わりの椅子を用意し、利用者と高さや使い方を確かめる。修理か購入かは、設備担当が費用を出して所定の決裁へ進めた。
川瀬は受付へ行った。
「椅子は替わりましたか」
「替わりました。ただ、最初は調節のところが分からなくて」
設備担当へ連絡したことで相談を完了にしていたら、その後は聞けなかった。使う人と受け持つ人をつないで、実際に使えるかまで確かめる必要がある。
問い合わせの件では、田村から、電話の取次ぎを分けられた日と、営業側との返答条件の確認が残った日が報告された。川瀬は、窓口に来た相談がどう進んでいるかを確認し、関にも次の打合せの予定を伝えた。
「窓口を増やすより、今ある相談の先を作りたいです」
川瀬は総務の会議でそう話した。別の担当者が休んでも進み具合を追えるよう、相談内容に応じた共有の範囲を確かめ、仕事の担当と次の確認日を記録した。健康上の相談は、閲覧できる人を分ける。
翌週、付箋を置いた同僚から新しい相談が来た。
川瀬は話を聞いた後、すぐ「対応します」とは答えなかった。
「今、何に困っていて、何を変えたいのか、もう少し教えてください。確かめる担当と、決める担当を一緒に探します」
自分の職場で考えるとき
総務が窓口になることは、全ての医学的・技術的な評価や、現場の仕事・予算の決定を総務が担うという意味ではありません。相談を受けたら、何を確かめる必要があるか、誰に権限や専門性があるか、誰が本人へ結果を返すかを考えます。労働衛生管理は関係者の連携と、会社の管理の中で進めるものです。[1]
相談先を教えるだけでは進まない場面では、本人が困っている内容を必要な範囲でつなぎ、相手が引き受けたか、対応は始まったかを確かめます。ただし、相談記録を共有の表へ何でも載せるのではなく、健康情報は社内の規程と目的に応じて適切に扱います。[2]
講話では「受け付けたまま止まっている相談は、何の判断を待っているか」を話してみてください。総務の仕事を増やすことより、会社として動ける経路を確かめるための問いです。
参考資料
- 厚生労働省 労働衛生の3管理。総括管理と関係者の連携を参照。
- 厚生労働省 労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針。取扱いの目的・権限・範囲を参照。2026年10月11日確認。