机を用意したあと、初日の仕事を考える
復職に向けた書類が届き、戻る日を相談し始めた。机もパソコンも用意できる。では、その日に何を担当し、迷ったとき誰へ相談するのか。会社側でそろえる準備をたどります。
机は空けてあります
総務の久保へ、水野から書類が届いた。主治医が復職に向けた見解を示したものだった。水野本人も、会社へ戻りたいと話している。
久保は、会社の職場復帰の手順に沿って、産業医との面談など必要な確認を進めることにした。同時に、受け入れる部門の西田課長へ準備を相談した。
「机は、そのまま使えます。パソコンの設定も戻せます」
西田が答えた。以前、水野は受発注の確認を担当していた。机の上は片付けてあり、別の人の荷物も置いていない。
「最初の仕事は、どんな内容にしますか」
久保が聞くと、西田は少し考えた。
「まずは、できることから。以前やっていた仕事なら分かると思います」
机の場所は決まっていた。ただ、初日にどの画面を開き、どの注文を受け持つかは決まっていなかった。
休業中、注文の確認方法が変わっていた。電話で受けていた一部の変更が、新しい画面から届くようになった。水野ならすぐに分かるだろうと、西田は思っていた。しかし、水野はまだ、その画面を使っていない。
以前の仕事をそのまま戻すのか
復職に向けた面談で、水野は久保と西田に尋ねた。
「初日は、いつもの時間に来て、注文を見ればいいですか」
まだ会社として勤務の進め方を決める前だった。久保は、確認中の点と、これから本人と相談して決めることを説明した。
水野は、前の受持ちがどうなっているかを気にしていた。ほかの人に任せたままで申し訳ない。戻るなら、早く取り返したい気持ちもある。
「今は、どうやって分けていますか」
西田は、現在の担当表を見せた。以前の仕事を何人かで分けたあと、連絡の受け方も変えている。水野が戻れば、そのまま全部を返せる状態ではなかった。
「以前の担当へ一度に戻す案にはしません。まず、どの仕事なら始められるかを、具体的に相談しましょう」
西田が言った。
水野はほっとしたようだったが、すぐに聞き直した。
「では、何をやっていればいいんでしょう」
負担を増やさないつもりの「できることから」は、本人に仕事の量も境目も考えてもらう言葉になっていた。
小さな仕事にも、終わりが必要だった
西田は、受発注の仕事を実際の順番で書き出してみた。注文を読む、数量を確認する、変更があれば担当へ照会する、返答を受けて確定する。ひとまとめなら一つの仕事だが、問い合わせを引き受けると、終わる時刻は自分で決めにくい。
「最初は数量の確認だけなら、どうでしょう」
久保へ案を示すと、久保は仕事の条件を聞いた。予定する量、作業する時間、割込み、間違いがあったときの対応。軽い仕事という名前だけでは、産業医にも実態が伝わらない。
西田は、初めの案を見直した。予定した範囲の確認を担当し、変更の問い合わせは別の担当へ渡す。新しい画面の使い方は、初日にまとめて覚えてもらうのではなく、扱う範囲を説明する時間を用意する。
水野は、その案を見て言った。
「確認が終わったら、ほかの注文も見た方がいいですか」
西田は、先を任せないようにした。
「終わったら、まず私へ知らせてください。その時点で、予定した仕事を終えたことを確かめます」
仕事を小さくするだけでは足りなかった。どこまで担当し、終わったらどうするかも分かる必要があった。
困ったときの相手は、どこにいるか
会社の準備案と仕事の情報を使い、産業医は水野の状態や主治医の見解を確認した。必要に応じた主治医との連携は、本人への説明と同意を得て進めた。
久保と西田は、医師の意見を踏まえ、本人と勤務や仕事の進め方を相談した。会社の決定権限を持つ人が復職と支援の内容を確認し、初日からの予定を具体化した。
復職後の相談先も確かめた。仕事の分からない点は西田へ。体調や支援についての相談は、総務から産業保健側へつながる経路を説明する。
「西田さんがいないときは、どうしますか」
水野が聞いた。課長には会議もある。相談先として名前が載っていても、席にいなければ声をかけられない。
西田は、初日の説明を隣の担当者にも依頼し、自分が不在の時間の仕事の問い合わせ先を決めた。体調に関する詳しい情報を、部署の全員へ説明することはしなかった。周囲には、受け持つ範囲と、問い合わせの渡し方など必要なことを伝える。
久保は、勤務を調整する間の処遇についても、社内の規程に沿って水野へ説明した。通常の仕事へ戻す時期は、日付だけを先に決めず、状態や仕事の状況、必要な医師の意見を確認して考える。
最初の振り返りの機会も予定に入れた。ただ、そこまで困りごとを待つ必要はないことを伝えた。

初日に開いた画面
復職した朝、水野は自分の机へ向かった。机の場所は前と同じだった。画面を開くと、見慣れない欄が一つあった。
西田が隣に座り、その日に扱う仕事を説明した。水野は最初の注文を読み、数量を確かめた。途中で新しい表示の意味が分からなくなった。
「これは、前のやり方と同じですか」
説明を受けて、次へ進んだ。何となく処理してから聞く必要はなかった。
予定した分が終わると、水野は別の注文を開きかけた。けれど、面談で話したことを思い出し、西田へ声をかけた。
「ここまで終わりました」
西田は結果を確かめ、分からなかった箇所を聞いた。終わった仕事の量だけでなく、新しい画面の説明にどれくらい時間が必要だったかも分かった。
「明日もここから始めましょう。説明したところで、やりにくかった点はありましたか」
水野は、さっきの表示をもう一度示した。西田は、次の説明で先に確認することにした。
机もパソコンも、復職の前に用意できていた。でも、その朝、水野が仕事を始められたのは、それだけではなかった。担当する範囲と、分からないときの相手が決まっていた。
久保は、その日の連絡を受けた。初日が終わったことは、通常の仕事まで戻せたこととは違う。予定した確認を続け、必要なら支援を見直す。
水野が帰る前、西田は翌日の予定を伝えた。水野は、そこに自分が何をするかを確かめてから、パソコンを閉じた。

自分の職場で考えるとき
主治医が示す復職に向けた判断と、実際の職場で必要な仕事を行えるかの確認は、同じとは限りません。心の健康問題による休業からの復職では、必要な情報をそろえ、産業医等の意見も踏まえながら、会社が判断し、具体的な支援プランを準備します。[1] 書類だけで受入れを完了したことにしない視点が大切です。
職場では、最初の仕事、その量や時間、説明する人、仕事や体調に困ったときの連絡先、実施後の確認を具体化します。勤務や仕事を段階的に調整する場合も、一律の期間や病名別の進め方を当てはめず、本人と医療・産業保健側の情報を踏まえて考えます。[1・2]
本文は、心の健康問題を想定した準備の例です。ほかの休業理由や会社の制度では確認する点が異なります。試し出勤や賃金の扱いなども含め、実際の支援は会社の規程と合わせて説明する必要があります。
講話では、「初日に本人が迷うことを、会社はどこまで具体的に準備できているか」を話してみてください。机と書類だけでなく、仕事を始め、終え、相談する場面から考えられます。
参考資料
- 厚生労働省 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き。主治医の判断と業務遂行の確認、支援プラン、復職後のフォローアップを参照。
- 厚生労働省「こころの耳」15分でわかる職場復帰支援。職場復帰支援の考え方と準備の流れを参照。