対策は実施した。「よくなった」と、何で確かめればよい?

改善のために設備や道具を入れると、ひとまず安心したくなります。では、その道具が使われていることと、狙った負担が減ったことは、同じでしょうか。

買った台車は、使われていた

製造課長の安藤は、改善報告の写真を選んでいた。

部品の箱を抱えて、洗浄工程から検査工程へ歩く。その負担を減らそうと、先月、工場で台車を購入した。通路を運んでいる写真も撮れた。納品書の横に、その一枚を置いた。

「使われていますね」

衛生管理者の原は、写真を見てから尋ねた。

「荷物を下ろすところも、見ましたか」

安藤は顔を上げた。購入前は、運ぶ人の腕と腰がつらいという声を聞き、一日の運搬の回数や箱の重さも調べた。車輪と荷台の寸法を確認し、通路を試走させて選んだ。

ただ、導入後に見たのは、台車が通路を動いているところだった。

「持って歩かなくなったのは、助かっています」

検査担当の石田は言った。

「でも、検査台へ上げるところは、まだちょっと」

その横で、同じ仕事をする奥野もうなずいた。

「私には、運ぶ途中にも気になるところがあります」

買った台車は使われていた。安藤は報告を出す前に、二人の仕事をもう一度見ることにした。

止めた運搬台車と荷下ろしの場所を見ながら、使った後の負担を話す二人。

抱えなくなった区間の、その前後

原と安藤が見たのは、箱を台車へ載せるところから、空の台車を戻すところまでだった。作業を急がせず、気になる箇所ではいったん止めてもらった。

洗浄工程では、箱を台に置いてから台車へ載せていた。箱を抱えて歩く区間は確かになくなっている。購入前の記録にも、同じ種類の箱を持ち、同じ通路を歩く作業が残っていた。

ところが検査工程では、台車から低い仮置き場所へ箱を下ろし、順番が来ると、もう一度検査台へ上げていた。

「台車を置いておくと、次の便が運べないので」

石田が説明した。

検査台の横は、検査済みの箱で埋まっている。そのため、台車を近づけて移し替えられない。低い場所へ下ろすたびに上体を曲げ、次にはそこから持ち上げていた。

台車を押している間は、荷物を腕で支え続けずに済む。しかし、運ぶ前後には、別の動作がある。

「これは、台車を入れたせいで始まったんですか」

安藤の問いに、石田は首を振った。

「前からです。一便でまとまって届くようになって、下ろす箱は増えました」

もともと残っていた負担と、新しい運び方で変わった頻度。その二つを分けて考える必要があった。

同じ作業者が箱を台車へ載せ、押して運び、低い仮置き場所へ下ろして検査台へ上げ直す図。手で抱えて歩く動作はなくなっても、低い位置で身体を曲げて箱を扱う動作が残る。

同じ道具でも、同じ使い心地ではない

奥野が気になっていたのは、荷物越しの見通しだった。

往復を減らそうと箱を重ねると、石田には見える通路の先が、奥野には見えにくくなる。奥野は箱の横からのぞき、曲がり角の前で台車の側面へ回っていた。

「低く積めば、見えます。でも、往復が増えるので」

安藤は、購入前に試走してくれたのが石田だったことを思い出した。奥野が不慣れだからという話ではなかった。二人とも長くこの工程を担当している。

もう一か所、床の継ぎ目で車輪が止まりやすかった。空のときには気にならず、箱を載せると、動き出す際に強く力を入れることがある。

そこで無理に押し通すことはやめ、当面は状態を確認できた別の通路を使った。設備担当者が車輪の状態と床を調べ、台車のメーカーにも、荷物と使用場所の条件を伝えた。

「使う人に、押し方を教えるだけでは足りませんね」

原が言うと、安藤は通路の図に印をつけた。

箱を持たなくて済むという利点は残す。そのうえで、積み方、動き出し、曲がる場所、止める場所も見る。重さが台車の表示された範囲に収まっているだけで、誰でも楽に運べるとは限らなかった。

同じ台車と積み方を横から比較する。石田は荷物越しに前を見られるが、奥野には荷物で見通しが遮られる。

荷物を下ろす場所を、先に空ける

安藤は、検査台の横にある箱の置き場から手をつけた。

検査済みの箱がいつ引き取られるかを後工程と相談し、搬出のタイミングを変える。設備担当者は、台車を近づけて移し替えられる受け渡し台を検討した。台の高さだけでなく、箱の持ち方、台車が動かないための措置、通路へのはみ出しも確かめることになった。

その準備中は、低い仮置き場所へ箱をまとめて下ろす運用をやめた。検査側が受け取れる数と運ぶタイミングを合わせ、無理な持ち上げが必要になる箱は、別の補助方法を用意してから扱った。時間割を変える判断は、作業者二人へ任せず安藤が引き受けた。

積み方についても、「少なくしてください」で終わらせなかった。

奥野が前方を確認でき、荷崩れしない組合せを、荷物の種類ごとに確かめる。往復が増えた場合、一日の運搬時間や作業の集中がどう変わるかも見る。

「一回が楽になっても、ずっと往復するなら困ります」

石田の言葉に、安藤はうなずいた。

床の継ぎ目は補修の予定が決まった。車輪も、メーカーが確認した使用条件に合うものへ交換することになった。設備担当者は、交換後の動き出しと停止を確かめ、以後の点検にも組み込んだ。

報告に書けることが、増えた

受け渡し場所を整えた後、原と安藤は、再び仕事を見た。

石田と奥野の両方に参加してもらい、荷物の種類と量、運ぶ区間が分かるように記録した。普段の荷物だけでなく、注文が多い日に繰り返す作業も確認した。比較のために以前の負担の大きい運び方へ戻してもらうことはしなかった。

安藤は、二人の作業時間を平均する前に、積み替える回数と、上体を曲げる場所をそれぞれの記録で見た。早く運べる人の数字に、もう一人の困りごとを隠さないためだった。原は、観察して分かったことと、本人から聞いた使い心地を分けて残した。押す力を数値で測ったわけではないので、その程度まで定量的に証明した報告にはしなかった。

箱を抱えて歩く区間はなくなっている。低い場所に下ろしてから上げ直す動作も、対象の工程では減った。奥野は荷物越しに前を確かめられ、床の継ぎ目で勢いをつけて押す必要もなくなった。

運搬の回数だけを見ると、当初の積み方より増えた。だが、検査前に箱を積み直す手間が減り、一日の段取りも回っていた。

「これなら、続けられそうです」

奥野が言った。石田は、受け渡し台の前で、空いた手を軽く振った。

「歩くときが楽になったのは、最初からです。ここまで見てもらえてよかった」

安藤は報告の写真を差し替えた。通路の台車だけでなく、受け渡しの場所も写した。

報告には、どの荷物と工程で何が減ったか、誰に使ってもらい、どこを見たかを書いた。短い確認で腰痛の予防効果まで証明できたとは書かなかった。身体の不調は別途相談を受け、仕事の記録とともに継続して確認する。

次に荷物の種類や置き場を変えるときも、この条件を使って見直せる。

台車を購入した、という報告は一行で済む。今回の報告には、道具が仕事の中で役に立った理由が書けた。

自分の職場で考えるとき

台車などの補助具は、手で持ち運ぶ負担を減らす有力な手段です。ただし、導入したこと、使われていること、狙った負担が減ったことは、分けて確認します。

まず、改善したい仕事を具体的にします。「腰の負担を減らす」だけでなく、どの荷物を、どこからどこへ、どのように運ぶときの負担かを確かめると、導入後に比べる条件が明確になります。

そのうえで、載せる、動かす、止める、下ろすという一連の作業を見ます。押す・引く力、見通し、体格と取っ手の関係、車輪と床、積み方、繰り返す回数などに注意し、複数の利用者から話を聞きます。荷物や作業量が違う日同士を、単純に比較しないことも大切です。

楽になった区間を残しながら、負担が残る箇所や別の作業へ移った負担を直します。短期間の「事故や腰痛がなかった」という結果だけでは、対策の効果を十分に説明できません。作業の変化を示す記録と、働く人の声の両方を使い、健康に関する相談も受けられるようにします。

衛生講話では、身近な道具を一つ選び、「購入前に減らしたかった負担は何か」「今は、どこでどう使われているか」を話し合うと、改善の効果を確かめる入口になります。

参考資料