一人ずつの相談を大切にしながら、部署に共通する仕事の条件にも目を向けます。訴えが重なることと、原因が同じだと分かることは別です。

また検査室から

総務の清水は、検査担当の小田から相談を受けた。午後になると肩のあたりがつらく、仕事の途中で姿勢を変えているという。

必要な相談先や仕事の調整について話していると、小田が聞いた。

「ほかの人も、同じことを言っていませんか」

清水は、すぐには答えなかった。今月、この部署から別の相談を受けていた。だが、それを小田に伝えるのは、本人への対応とは違う話になる。

「小田さんが困っていることを、まず聞かせてください。部署の仕事について確かめた方がよいことがあれば、それも考えます」

産業医への相談は、社内の窓口を通じて手配した。どの情報を仕事の調整に使うかは、本人への説明と社内の取扱いを確かめながら進める。

産業医への相談を手配しても、清水の気がかりは残った。勤務する人が同じ部屋にいることは分かる。けれど相談内容も、始まった時期も同じではない。部署の環境に原因があると書くには足りなかった。

工場長へは、相談者の一覧を持たずに話した。

「検査部署から不調に関する相談が重なっています。個別の相談は進めていますが、仕事の条件も確かめたいです」

部署の話として何を聞くか

工場長は、以前から作業管理を相談している労働衛生コンサルタントに、検査の仕事を現場で見てもらうことにした。依頼したいのは個人の病気の判定ではなく、同じ部署で続く仕事の負担の確認だった。

労働衛生コンサルタントは資料を見て、まず工程と担当、仕事が続く時間、最近の変更点を聞いた。清水が用意した相談件数だけでは、どの作業を見ればよいか分からなかった。

検査課長の藤原は、月初めに実績入力を変えたことを思い出した。

「紙から端末へ替えました。入力が減るはずでしたが、慣れるまでは仕方ないのかもしれません」

課長の説明では、端末は検査の最後に触るだけだった。労働衛生コンサルタントは、最後の入力だけでなく、その前後も見たいと話した。産業医とは役割を確認し、個人の健康相談の記録をそのまま工程の評価資料に渡す進め方にはしなかった。

現場を訪れる日は、従業員へ目的を説明した。誰が相談したかを探すためではなく、作業を続ける条件や負担を確かめるために来てもらう。清水も、課長と一緒に検査室へ入った。

検査台と端末の位置を見ながら、総務の清水に普段の仕事を説明する検査担当の小田。

端末を使うのは最後だけか

小田は部品を確認し、結果を入力した。途中で画面に戻り、検査項目を読み直すこともあった。

端末は、検査台の奥の棚に置かれていた。部品を置く面を空けるためだった。入力だけなら短いが、検査する間も画面を見る。清水が工程表から想像していた使い方とは違った。

「手前に出したら、どうですか」

藤原が尋ねると、小田は検査用の器具を見た。

「ここは器具と部品を使います。端末を置くと、動かすたびにどちらかをよけます」

ほかの台では、椅子と画面の位置が違っていた。同じ検査の担当でも、身体を向ける先や、画面を見る回数はそろっていない。

労働衛生コンサルタントは、配置だけで説明を終えなかった。端末の導入前後で仕事の区切りがどう変わったかも尋ねた。

「前は、記録をまとめる人に紙を渡したら、一つのまとまりが終わりました。今は入力の途中で次の検査を頼まれます」

藤原には、頼める仕事が増えたように見えていた。小田には、終える前に別の仕事が始まるように感じられていた。

別の担当者は、端末より、応援の依頼が入る時間帯に困っていた。小田と同じ改善を望んでいるわけではない。清水は、人の名前を並べる代わりに、どの仕事で何が重なるかを書いた。

藤原は、慣れた人なら負担は小さいのだろうと思っていた。長く担当する人にも聞くと、画面を見にくいとは言わず、部品を持つたびに身体の向きを変えていた。

「気にならないんですか」

「そうする仕事だと思っていました。ここで終わった後は、一度ほかの作業をしたいです」

訴えが来た席だけでなく、同じ仕事をしている人の動きも確かめる理由ができた。相談していない人を負担のない人として数えることは、しなかった。

同じ検査台で、部品を見る姿と奥の棚の画面を見る姿を並べた図。部品を扱う手元を残したまま、作業者が身体と顔の向きを変えて画面を見ている。

一つの原因にはしなかった

打合せで、藤原は聞いた。

「端末への変更が原因だったということですか」

「今回見た条件は、見直す対象になります。ただ、それで相談された不調の原因が全部分かったとは言えません」

労働衛生コンサルタントは、検査と画面を見る姿勢、割込みで区切りが消える場面について、確認したことを説明した。照明や画面の見え方、台や椅子も、作業と合わせて確認する必要がある。個人の健康状態については、それぞれの相談と医学的な評価を続ける。

藤原は、端末を元へ戻すつもりでいた。だが、小田は紙の転記がなくなった点は助かっていると言った。

「全部前に戻すより、見る位置と、終わるところを考えたいです」

会社は、設備担当と端末の置き方を試し、部品を置く場所と器具の動きも確かめることにした。入力を終える前に次の担当を重ねないよう、課長が応援の依頼方法を変える。忙しい時間に誰が確認を引き受けるかも相談した。

工場長は通常の業務時間内に試行することを認め、藤原へ、検査量だけで結果を見ないよう求めた。使う人の負担、割込みの入り方、仕事を区切れたかも聞くことにした。

個別の相談は続ける

試行後、小田は、画面を見るたびに向きを変える回数が減ったと話した。肩のつらさについては、相談を続けている。藤原は、その二つを同じ成果として記録しなかった。

別の担当者の応援依頼は、まだ一度に重なった。相談した人の仕事を先に確かめたことで、誰に負担が集まっているかは見えたが、全ての台を一日で調整できたわけではない。

清水は、次の産業医との打合せで、個人の相談と、職場として確認した事柄を分けて準備した。部署の改善については、個人が特定される情報を不用意に含めないようにし、必要な共有の内容は関係者と確認した。

小田は帰り際、清水に言った。

「私が相談したから、みんなに聞いて回ったと思われませんか」

「仕事を見直すために確認したと、部署へ説明します。小田さんの相談の内容を皆さんに渡すことはしません」

清水は、改善案の説明にもその点を入れた。困りごとを伝えられることも、部署の仕事を確かめる条件の一つだった。

自分の職場で考えるとき

同じ部署からの訴えが重なっても、同じ原因があるとは限りません。個人の健康相談や必要な措置を進めながら、共通する作業、時間帯、変更点、負担が集まる場面を確認します。改善候補が見つかったことと、個々の不調の原因が確定したことを分けます。

健康情報は目的と必要な範囲に応じて適切に扱い、部署の確認を理由に相談記録を広く配らないようにします。[1] 仕事の条件を考える際は、実際に働く人の意見を聞くことが欠かせません。職場改善のヒント集や情報機器作業のガイドラインも、確認の手掛かりになります。[2・3]

講話で扱うなら「同じ部署でも、同じ仕事・同じ負担だと思い込んでいないか」を問いにできます。部署で変えることと、個別に対応することを、どちらか一方にしないための話です。

参考資料

  1. 厚生労働省 労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針。目的、範囲、社内の取扱いを参照。
  2. 厚生労働省「こころの耳」職場改善のためのヒント集。働き方や職場の条件を確認する資料。
  3. 厚生労働省 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(2021年改正後全文)。作業と環境の確認を参照。2026年10月11日確認。