0. このコラムでお伝えしたいこと(要約)
- 「働いて働いて働いて…」と聞いて、すぐ顔が浮かぶキーパーソンがいる職場は少なくありません。
- 「本人は元気そう」「楽しそうにやっている」からこそ、長時間・高負荷の働き方が放置されやすいという逆説があります。
- とくに中小企業では、仕事の属人化と人手不足が重なり、気づかないうちに「その人頼み」の危うい状態になりがちです。
- この記事では、
- work work work な人をどう見つけるか
- 負荷の偏りをどう棚卸しするか
- 産業医・労働衛生コンサルタントをどう使うか
を整理しながら、個人の頑張りに頼らない職場づくりを考えていきます。
1. 「働いて働いて働いて…」は、どこの職場にもいる“あの人”の話
2025年の流行語にもなった「働いて働いて働いて…」。
SNSやニュースで見かけながらも、
「うちはそこまでじゃないし」
「あれは一部の極端な人の話でしょ」
と、どこか他人事に感じている方もいるかもしれません。
このコラムは、
とくに中小企業で、
「最低限やるべきことはやっているつもりなのに、
特定の人だけ work work work 状態だ」
と感じている経営者・総務担当者の方に向けたものです。
改めて、こんな問いから始めてみます。
あなたの会社の中で、
「あの人が倒れたら本気で困る」とすぐ名前が浮かぶ
エース社員=キーパーソンは、何人いますか?
そして、その人たちの働き方を、
「このまま5年続けても大丈夫」と本気で言い切れるでしょうか?
ここでいう “work work work な人” とは、
単に長時間働いている人だけではありません。
- 仕事が早く、正確
- 顧客からの信頼も厚い
- 社内の調整役も引き受けがち
- 困ったときに相談すると、だいたい何とかしてくれる
そんな“何でも屋”になってしまっているキーパーソンのことです。
とくに中小企業では、
組織の規模や人員体制の関係で、
「あの人がいないと回らない」
「この案件は、最終的にはあの人にお願いするしかない」
という状況が、気づかないうちに日常化しがちです。
2. 「元気だから大丈夫」は、実は一番こわい
work work work な人が見落とされがちな理由の一つは、
本人も周囲も「元気だから大丈夫」と思い込みやすいことです。
- 本人は
- 「好きでやっている」「任せてもらえるのが嬉しい」
- 「自分がやったほうが早いし、迷惑をかけたくない」
- 会社側の認識は
- 「あの人はタフだし、楽しそうにやっているから大丈夫」
- 「忙しそうだけど、まさか限界とは思っていない」
- 産業医・社内の健康相談も
- 「本人から特に相談はない」
- 「健康診断の数値も大きな異常はない」
となれば、
「とりあえず様子を見ましょうか」
「何かあったら本人から言ってくるだろう」
という、見過ごされやすい状態/先送りされやすい状態/手が付かないままになりやすい状態になってしまいます。
しかし実際には、
- 「自分が抜けたら迷惑がかかる」と思うほど、
人は限界を自覚していても、声を上げにくいものです。 - しかも、
- 責任感が強い
- 成果を出している
- 周囲からの評価も高い
という人ほど、「ギリギリまで何とかしてしまう」傾向があります。
つまり、
一番守らなければいけない人ほど、
「大丈夫そう」に見えてしまう。
これが、work work work の一番やっかいなところです。
3. 特定のキーパーソンだけが燃え続ける職場の構造
「最低限」の対策は整えたはずなのに、
なぜか“特定の人だけ”に負荷が集中したままになっている──。
この背景には、個人の頑張りだけでなく、
職場の構造そのものが影響しています。
3-1. まずは「誰が work work work なのか」を可視化する
最初の一歩は、とてもシンプルです。
- 「あの人が倒れたら困る人」の名前を挙げる
- その人たちが担当している仕事・役割を書き出してみる
紙でもホワイトボードでも構いません。
ざっくりでいいので、「名前」と「仕事」を線で結んでいくと、
「あれも、これも、結局あの人がやっている」
という実態が見えてくることがあります。
そこが、業務の属人化と work work work の温床になっているかもしれません。
3-2. 「その人にしかできない仕事」と「本当は分けられる仕事」を分ける
次に、その人が抱えている仕事を、
大きく2つに分けてみます。
- 本当にその人でないと難しい仕事
- 高度な専門性が必要な判断
- 重要な取引先との関係構築
- 長年の経験に基づく、暗黙知に近い判断
- 本当は分けられるかもしれない仕事
- 定型的な事務処理
- 会議調整・雑務
- 「いつの間にかその人がやることになっていた」仕事
この時点では、
「どこまでなら分けられそうか」
「誰にどう振れるか」
がはっきり見えなくても構いません。
大事なのは、
「全部その人がやる前提」から
「どこなら動かせるか」という視点に切り替えること
です。
3-3. 「全部変える」は無理でも、「まず1つだけ」動かしてみる
多くの職場で失敗するのは、
「一気に全部見直そうとして、途中で挫折する」
パターンです。
最初からすべての業務を棚卸しして、
完璧な業務分担表を作ろうとすると、
それだけで疲れ果ててしまいます。
現実的には、
- まず1つだけ、「これは動かせるかも」という仕事を選ぶ
- 小さく試してみて、
- 困ったこと
- 想定外にうまくいったこと
を振り返る
この「小さな実験」を繰り返すほうが、
結果的に安全かつ着実に work work work 状態を減らしていく近道です。
4. 産業医は「最後の砦」ではなく、健康リスクの専門家
4-1. 産業医を“最後の砦”としてだけ捉えるのは危うい
産業医に対するイメージで、残念ながらよくあるのが、
「本当にまずい人が出てきたら、
最後は産業医に丸投げすれば何とかしてくれる」
という、あたかも“最後の砦”のような、好ましくないとらえ方です。
たしかに、
- 高ストレス者
- 長時間労働者
- 休職・復職に関わるケース
など、
「明らかにリスクが高い」人への個別対応は、
産業医の重要な仕事のひとつです。
しかし、
「放っておいてギリギリになったら産業医に任せる」
という使い方は、
本人にとっても、職場にとっても、産業医にとっても良くありません。
4-2. 産業医が行うことは「健康リスクの見える化」と「予防のための助言」
産業医が行うことは、ざっくり言うと次のようなものです。
- 健康診断や面談等を通じて、
個々の従業員の健康リスクを把握する - 長時間労働や夜勤、ストレス要因など、
働き方と健康への影響を評価する - リスクが高い人・部署に対して、
事業者に改善のための意見や助言を行う
言い換えると、
「どこが危ないゾーンなのか」を
健康の専門家として見える化する役割
が、産業医の主な仕事です。
ここで大事なのは、
産業医は、
「ここを越えたら急に安全」「ここまでは絶対に大丈夫」
という線引きを保証する立場ではない、という点です。
健康リスクは、人によって許容範囲が違います。
「これなら全員にとってギリギリセーフ」とは言い切れません。
産業医が行うのは、
- 「今の働き方・環境が、この人にとって、明らかに危険寄りに傾いている」
- 「このまま続けば、将来的に健康上の問題が起こる可能性が高い」
といった“赤信号〜黄色信号”を伝えることです。
4-3. 産業医に「設計まで全部お任せ」はできない
ただし、ここで勘違いしてほしくないのは、
「産業医に任せておけば、防火設計まで全部やってくれる」
という、よくあるけれど危うい発想です。
産業医は、
- 日々のマネジメントや業務の中身まで細かく入り込み、
- 業務の流れや人員配置を一から組み直し、
- 組織全体の設計を全面的に作り替える
といったことを、
単独で実行に移すことはできません。
とくに、月1回・2か月に1回の嘱託産業医ではなおさらですし、
専属産業医であっても、
「実際に人と仕事を動かす権限」は会社側にある
という大前提は変わりません。
ここまでが、
産業医が健康の観点から担う役割の大枠です。
5. 労働衛生コンサルタントは、「仕組み」と「場づくり」を支援する専門家
5-1. 産業医と労衛コンでは、主戦場が少し異なります
産業医と労働衛生コンサルタントでは、
主戦場が少し異なります。
- 産業医:
- 個々の従業員の健康状態
- 働き方と健康リスク
に重心を置きながら、必要に応じて職場環境にも助言する立場
- 労働衛生コンサルタント:
- 事業場全体の衛生管理体制や仕組み
- 安全衛生に関するルール・運用
に重心を置き、「どう設計すれば事故や健康障害を防げるか」を一緒に考える立場
どちらも「人」と「組織」の両面に関わりますが、
入口として見ているポイントが少し違うイメージです。
5-2. 労衛コンができることは、「構造の診断」と「現実的な選択肢の提示」
労働衛生コンサルタントが関わるとき、
代表的なのは次のような支援です。
- 現状の業務体制やルールを整理し、
「どこにリスクやムラがあるか」を構造的に診断する - その上で、
- 何から手を付けると効果的か
- どこは当面維持し、どこを変えるべきか
など、現実的な優先順位や選択肢を提示する
- 必要に応じて、
- 衛生委員会やプロジェクトの場でのファシリテーション
- 管理職向けの勉強会・ワークショップ
などを通じて、社内での対話や合意形成を手伝う
言い換えると、
「どこをどう変えれば、work work work に頼らない仕組みに近づくか」を
一緒に考える外部の伴走者
という役割です。
5-3. 労衛コンにも「丸投げ」はできない
ただし、ここで勘違いしてほしくないのは、
「労働衛生コンサルタントに頼めば、全部お任せで解決してくれる」
という、こちらもよくあるけれど危うい発想です。
労働衛生コンサルタントは、
- 現状を言語化し、
- 選択肢を整理し、
- 方向性を一緒に考えることはできますが、
実際に、
- 誰をどのポジションに置き、
- どの仕事をどのように手放し、
- どのレベルまでなら業務を絞り込めるか
を決めて、
現場で実行に移すのは、あくまで会社自身の役割です。
労働衛生コンサルタントなどの外部の専門家にできるのは、
- 「どこに負担が偏っているか」を一緒に見つけること
- 「どこをどう変えると、安全側に寄せられるか」の選択肢を提示すること
までです。
設計図を一緒に考えることはできますが、
その設計図を現場で動かし続けるのは、
その職場で働く人たちと経営陣にしかできません。
6. 「自分たちで動かす覚悟」がある職場と、外部の専門家
これまで見てきたように、
- work work work なキーパーソンを見える化する
- 仕事の属人化を少しずつほどいていく
- 産業医が健康リスクの「危ないゾーン」を示し
- 労衛コンが仕組みの改善案を一緒に考える
という流れの中で、
個人の頑張りに頼らない職場づくりは、少しずつ形になっていきます。
そのときに土台となるのは、
- 社内の状況を、できる範囲で正直に共有すること
- 何をどこまで動かせるかについて、経営側が腹をくくること
- 現場と経営のあいだで、現実的な落としどころを探し続けること
といった、「自分たちで動かす側の覚悟」です。
この記事を通じて、
各事業場で、自分たちで工夫しながら職場をより良くしようとする取り組みが広がっていくことを、
私たちは願っています。
そして、
「自分たちでできるところまではやってみた。
それでも、あと一歩のところで悩んでいる」
そんなときにこそ、
産業医や労働衛生コンサルタントといった外部の専門家を、
“丸投げ先”ではなく、“必要なときに必要な形で”相談できる相手として使っていただければと思います。

