緊急時は、本社や産業医の返事を待たず救急要請します。現場は業務を止め、通報・付き添いを分担し、本社は残った仕事の調整を支えます。病名を社内で決めてから動く必要はありません。

職場で体調不良者が出たとき、病名や治療の必要性を診断するのは医療機関です。一方、業務を止める、救急要請する、相談や受診につなぐといった行動は、その場で始める必要があります。

本社や産業医の返事を待たなければ動けない状態では、対応が遅れかねません。現場が初動を担い、本社・管理側が、現場の人だけで抱え込まずに済む手順と連絡体制を用意しておく。この役割分担から考えます。

舞台は、架空地域「遠瀬郷」の小規模な物流拠点です。

午後3時の物流拠点で起きたこと

遠瀬郷の沿岸部にある物流拠点では、常時6名ほどが働いています。最寄りの診療所まで車で約20分、総合病院までは約40分。公共交通機関の本数は少なく、夕方以降の移動手段も限られています。

午後3時ごろ、従業員の一人が所長に申し出ました。

「お腹がかなり痛いです。少し休めば大丈夫かもしれません」

顔色は悪く、冷や汗もにじんでいます。それでも本人は「救急車を呼ぶほどではないと思います」と話しています。

本社の人事担当者は別の地域にいます。産業医が、その場で本人の状態を確認できる状況でもありません。

この会社では、本社と所長が以前に、体調不良者への対応を確認していました。緊急時は本社の承認を待たずに救急要請すること、通報する人と本人に付き添う人を分けること、報告を受けた本社が業務調整を支えることです。報告先と記録の置き場所も共有していました。

病名を決めなくても救急要請はできる

このケースで所長が避けたいのは、「胃腸炎だろう」「本人が大丈夫と言うなら問題ない」と、病名や安全性を決めつけることです。

本人の話を聞くことは大切です。ただし、「大丈夫」という言葉だけで対応を終えず、強い痛みの訴えや普段と違う様子も、救急への連絡時に伝える情報として受け止めます。

病名が分からなくても、緊急性が高いと感じたら119番してください。社内の承認やアプリでの確認を先に済ませる必要はありません。

東京消防庁も、緊急性が高いと思ったときは119番、緊急性が高いか分からないときや迷ったときは#7119を利用するよう案内しています。救急相談センターQ&A

電話では、本人が訴えていることと、周囲から見えていることを伝えます。通信指令員の質問に答え、応急手当などの指示に従います。消防庁の119番通報の案内

救急要請や受診の必要性に迷う場合には、地域の救急電話相談も利用できます。救急安心センター事業「#7119」は、急な病気やけがについて電話で助言を受けられる仕組みです。利用できる地域・時間帯は、事業場ごとに確認しておきます。

消防庁の「Q助」も、症状を選ぶと必要な対応の目安を示す支援ツールです。これらは、119番する前に必ず経由する窓口ではありません。

本社が現場と一緒に決めておくこと

「何かあったら本社に電話してください」だけでは、本社につながらないときに手が止まります。誰が何を担うかは、少人数の現場でも実行できる形で決めておく必要があります。

遠瀬郷ケースノート|第1話現場の初動を、本社が前後から支える
平時の備え
本社と現場

動ける準備をする

  • 最初に動く人と、不在時の代わりを決める
  • 通報・付き添いの分担を確認する
  • 連絡がつかない場合の連絡先も用意する
  • 記録の置き場所を共有する
異変が起きたとき
現場

本人の業務を止める

  • 通報と付き添いを分担する
緊急時は119番本社の承認を待たない通信指令員の指示に従う
連絡を受けた本社

業務調整を支え、
現場が対応に集中できるようにする

対応後
現場

落ち着いてから記録する

  • 本人の申告・周囲から見た様子
  • 対応した内容と時刻
本社と現場

次の対応につなぐ

  • 手順を振り返り、見直す
  • 次に状況を確認する担当を決める

このケースでの、本社と現場の役割分担。

本社が書類を作って配るだけでは、現場の人数や仕事の都合に合わないこともあります。「この時間帯に一人が付き添ったら、残る人で何ができるか」まで、現場と確認しておきます。

遠い職場では、移動の段取りも欠かせません。受診につなぐ場面では、診療時間だけでなく、利用できる交通手段や付き添いの確保も課題になります。今回のような状態の本人に運転させて向かわせるのではなく、救急につなぎます。

所長と同僚はどう動いたか

所長は本人の業務を中断し、同僚に付き添いを頼みました。本人には「痛みが強く、いつもと様子が違うので、救急車を呼びます」と伝え、自分が119番に連絡しました。

通報では、事業場の場所、本人の強い腹痛の訴え、顔色や冷や汗の様子を伝え、その後は通信指令員の指示に従いました。同僚は本人のそばで様子を見守り、変化があれば所長へ伝えました。

救急への対応を優先したうえで、所長は決めてあった本社の担当者に連絡しました。本社の担当者は、所長から残る人数で対応できる作業を聞き取り、その日の出荷予定を組み直しました。遅れが出る取引先への連絡も本社で引き受け、所長と付き添う同僚が本人への対応を続けられるようにしました。

対応が落ち着いてから、所長は本人の申告、周囲から見た様子、業務を中断した時刻、119番への連絡時刻、受けた指示と実施した対応を記録しました。

対応が落ち着いてから

後日、本社と所長は記録を見ながら、通報や付き添いの分担、出荷予定の変更を振り返ります。日中はできた分担でも、人の少ない時間帯には同じように動けるとは限りません。今回の経過を手がかりに、連絡先や手順を直していきます。

本人の健康情報を含む記録は、扱う目的と閲覧できる人を決めて管理します。他の拠点には、手順の改善に必要な範囲で共有します。その後の本人の状況を誰が確認するかも、本社と現場で引き継いでおきます。

所長が119番へ連絡している間、同僚は本人に付き添っていました。二人の分担は、以前に本社と確認していたとおりでした。

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※地域・企業・人物・経過は架空です。