二つの見積もりの金額は、かなり違っていました。購入を決める前に、設備に何をしてほしいのかを、作業と使い続ける条件から考えます。
安い案が、先に目に入った
製造課長の丸山は、工場長へ二つの見積書を出した。研磨工程の粉じん対策として、集じん設備の導入を検討していた。
一方には、集じん機本体とホースの価格が書かれていた。もう一方には、フード、配管、工事、導入時の確認まで項目がある。
「本体の吸い込む量は、どちらも大きいようです」
「値段の差は、工事の分ですか」
工場長に聞かれ、丸山は見積書を見直した。
「そこが、まだ説明できません」
この工場では、以前、一台の研磨台で長い部品を扱う条件を評価し、配置を変えて作業を再開した。今回は、受注に合わせて研磨台を増やし、二人が同時に加工する計画だった。前回確認した一台の条件を、そのまま二台へ広げてよいとは言えない。増設する台は、必要な対策と確認を終えてから使い始める予定にしていた。
以前の評価を依頼した労働衛生コンサルタントとは、その後、衛生上の課題を相談する顧問契約を結んでいる。
丸山は、見積書と作業の資料をメールで送った。
「どちらを選ぶのがよいでしょうか」
返事には、製品名への丸印はなかった。二社へ伝えた作業条件は同じか、見積もりがどこまでを含むか、導入後に何を確認する予定かを聞かれた。
丸山は、送った資料をもう一度開いた。金額の比較をする前に、比較できる条件がそろっていなかった。
「研磨用」だけでは足りなかった
設備担当の杉本と、作業者の井上も打合せへ入った。
丸山が二社へ伝えたのは、「金属部品の研磨で出る粉を取りたい」という説明だった。一社には作業台の写真を送り、もう一社は現場へ来ている。
井上は、普段使う部品を持ってきた。
「短いものだけなら、ここでできます。長いものは持ち替えて、こっちも仕上げます」
丸山は、以前の評価で描いた作業範囲に、増設する台の位置を加えた。取りたい粉が出る位置は、一か所ではない。二人が別の台で同時に加工する条件も、今回の計画には含まれる。
「集じん設備は一台で足りるか、という質問も、まだちゃんと渡していませんでしたね」
杉本は、材料と研磨材の情報、発生する粉じんの性質について、設備業者が何を確認したか尋ねることにした。空気を吸う能力だけでなく、その粉じんに適した捕集・処理や、必要な安全上の対策も検討する必要があった。
労働衛生コンサルタントには、購入条件の整理を相談した。具体的な設備設計と性能の説明は、適切な専門性を持つ設備業者に求める。作業者のばく露をどのように確かめるかは、必要な測定・評価を行う専門家も含めて相談する。
丸山は、二社へ同じ資料を渡した。対象材料、普段と多い日の作業量、部品を扱う範囲、同時使用、置き場と通路。何を根拠に設備案を出してほしいかが、前よりはっきりした。

使う人の前で、図面を開く
設備業者が来た日、井上は図面のフードの位置を見て、部品を持ち替える動きを見せた。
「ここに吸込み口が来ると、この端を見たいときに、外へ出すと思います」
設備業者は、井上の手と部品が動く範囲を確認した。作業中にフードを遠ざけたくなる理由があるなら、説明を増やすだけでは使い方が続かない。
杉本は、配管の位置が部品を運ぶ通路にかからないかも確認した。通常作業だけでなく、集じんした粉を取り出す場所と、交換する部品へ手が届くかを、図面に重ねた。
「この蓋を開けるときは、横に空間が要ります」
業者の説明に、丸山が目を上げた。その場所には、完成した部品の棚を置く予定だった。
棚を寄せればよい、で済ませず、部品の置き場を変える費用と手間も検討に入れた。粉を取り出す作業で、再び作業者へ粉じんを広げない方法と保護具なども確認する。
一社の安い見積もりは、本体だけを先に選ぶ案だった。会社の作業条件に合わせたフードや導入時の確認を加えると、金額が変わった。一方、項目の多い見積もりも、二人同時の作業については条件の追加が必要だった。
こちらが二社へ頼んだ範囲が違い、見積もりが想定する仕事もそろっていなかった。
同じ範囲で見積りを比べる
| 当初の見積範囲 | 案A | 案B |
|---|---|---|
| 本体の選定 | 記載あり | 記載あり |
| フード・配管・工事 | 別途確認 | 記載あり |
| 導入時の確認 | 別途確認 | 記載あり |
| 二人同時の条件 | 追加確認 | 追加確認 |
二台同時使用・材料・作業量・扱う範囲を揃え、受入れ確認と保守も含めて取り直す
買った翌月のことも、今決める
工場長への再説明では、本体と工事の価格に加え、導入後の欄を作った。消耗品、点検、保守、故障時の連絡、性能を確認する仕事。杉本に金額と実施条件を確認してもらった。
「フィルターは、杉本さんが交換する想定ですか」
工場長に聞かれると、杉本は作業内容の説明を開いた。
「私が担当する部分と、業者に頼む部分を分けました。止める時間も必要です」
保守を外注する案なら費用が増える。社内で行う部分には、必要な知識と用品を用意し、設備を止めて作業する時間も勤務の予定へ入れる。杉本は、その条件も比較表へ添えた。
異常の見つけ方と、どんなときに使うのを止めるかも説明を求めた。故障してから連絡するだけでなく、日常に何を見てよい状態を確かめるかが必要だった。
丸山は、導入後の受入れ確認について労働衛生コンサルタントへ相談した。電源を入れて動いた、という確認と、想定した作業で粉じんを抑える目的が達成されたかの確認は、分けておく。
設備業者と、性能や使用条件を記録する資料、使用・保守の説明、必要な測定・評価の実施方法を詰めた。立会いには井上も参加する。扱う部品の組合せと作業量は、確認する当日だけ都合よく減らさない。
設備の取扱説明書と確認結果を、会社が受け取って保管することも発注条件へ入れた。
決裁の紙が変わった
工場長は、同じ要求条件で取り直した見積もりを見た。
「最初より高くなった案もありますね」
「はい。でも、何が含まれ、何を確認して使い始めるかは分かるようになりました」
丸山は、費用の比較表を押し出した。全部入りだからよい、安いから悪い、ではない。必要な働きを満たす案について、設置や保守を含め、続けられる条件を比較する。
工場長は、設備の導入費と、確認・保守の費用を含めて一案を決裁した。発注書には、対象の作業条件と受入れ確認を添えた。
設備はまだ届いていない。井上は確認済みの一台で作業を続け、増設する台の使用は、設置後の確認を待つことになった。
丸山が現場へ戻ると、井上が聞いた。
「使うときも、一緒に見てもらえるんですよね」
「はい。買ったから終わり、にはしていません」
丸山は、設置の予定表に、使う人が確認へ参加する時間を入れた。決裁が通ったことより、その予定を伝えられたことに、少しほっとした。
自分の職場で考えるとき
購入前には、「何を、どの作業条件で抑えたいか」を要求条件にします。局所排気と集じんの仕組みでは、発生源での捕集、搬送、処理、排出がつながって働く必要があります。本体のカタログ値だけで、実際の作業者のばく露を抑えられるかは決まりません。[1]
設置後に性能を確認する方法、使用・点検・保守の説明と資料も、購入時に相談します。導入してから責任範囲を詰めるより、発注前に、誰が何を確認し、どんな資料を会社へ渡すかを決める方が判断しやすくなります。[1]
設備を選ぶ段階も、作業の変更に伴う危険性・有害性を検討する機会です。設計や技術的評価には、その仕事を行える専門家の関与が必要です。[2] 対象となる法令上の設備・測定・届出なども、作業と材料に応じて確認します。
講話では、「この見積もりには、使い始めてよいと判断するための確認が入っているだろうか」と考えてみてください。
参考資料
- 英国HSE Clearing the air: A simple guide to buying and using local exhaust ventilation (LEV)。要求条件、業者への依頼、導入時確認、使用・保守の資料を参照。英国の法定頻度等を日本の義務として適用するものではありません。
- 厚生労働省 危険性又は有害性等の調査等に関する指針について。設備導入・変更時の調査と、計画段階での検討を参照。