設備のスイッチを入れたことと、働く人が吸う粉じんを減らせていること。その間を、実際の研磨作業から確かめます。
音は、いつもどおりだった
研磨台の後ろで、排気の音がしていた。製造課長の丸山は、運転表示を見てから、作業者の井上に聞いた。
「吸込み、弱くなっていますか」
「音は変わらないです。ただ、長い部品をやると、こっちにも粉が来ます」
井上は、止めてある工具と部品を台に置いた。片端を仕上げるには、部品を横へずらす必要がある。台の奥には、粉じんを吸い込むフードがあった。部品が短ければその近くで扱える。長いものでは、端が開口部から外へ出る。
丸山は、少し前にも同じ台を見ていた。そのときは、井上が部品を片付けた後だった。台の粉を掃除し、設備の運転も確認した。翌日からは、開始前にスイッチを入れたことを記録するようにした。
その欄には、毎日チェックが入っている。
「動いていない日があると思ったんですけどね」
「使っています。使わないと、もっと広がるので」
井上は、台の右側にある部品置き場を示した。長い部品の端を置き、持ち替える場所だった。丸山は、記録の紙を折ってポケットへ入れた。運転していることは分かった。それで、この作業に十分なのかは分からなかった。
何を見てほしいのか
設備担当の杉本に聞くと、フィルターの交換記録と、設備の点検結果が出てきた。過去の作業環境測定の報告書もあった。ただし、報告書の作業一覧に、この長い部品を扱う条件は見当たらなかった。
「これで問題ない、と言っていいですか」
丸山が聞くと、杉本は首をかしげた。
「点検したときの性能は書いてあります。でも、今の位置で加工することまで見たかは、確認しないと」
丸山には、新しい設備を買う案も浮かんだ。けれど、今の設備のどこが足りないのか説明できないまま、金額だけを上げるのも違う気がした。
工場長に相談すると、先に現在の作業と設備の関係を評価することになった。丸山は、設備の衛生対策を扱う講習で話を聞いた労働衛生コンサルタントへ連絡した。講習後に質問をしたことはあったが、工場の仕事を依頼するのは初めてだった。
長い部品を研磨すると粉が作業者側へ来ること、設備は動いていること、既存の記録だけでは判断できないことを伝えた。現地で何を確認するか、資料として何が必要か、費用はいくらかを聞き、工場長がその範囲で依頼を決めた。
確認までの間は、問題が出ている台での長い部品の研磨を止めた。丸山は、別の仕上げ方法を検討する間の納期について、営業とも調整した。

吸込み口と、仕事をする場所
現地確認の日、労働衛生コンサルタントは、まず工具を動かさずに、普段どこへ部品を置き、どの向きに持つかを見せてもらった。
井上が長い部品を置くと、丸山は前日に見た位置より、さらに右へ移る場面があることに気づいた。
「最後は、ここに持ってきます。手前の角も見たいので」
「そのとき、粉が出る場所はここですね」
労働衛生コンサルタントは部品の端を指し、フードの位置と、井上の顔の位置を図に書いた。使う材料と研磨材の情報、作業時間、清掃の方法も確認した。
丸山は、吸込み口の近くに手をかざしてみようとした。
「風を感じれば、吸っているとは分かりますよね」
「その場所で空気が動くことは分かります。ただ、粉が出る位置で十分に捕まえられるか、井上さんがどれだけ吸い込むかは、それだけでは判断できません」
ばく露とは、粉じんなどの有害な要因に身体がさらされることだと説明を受けた。丸山が確かめたいのは、モーターが回ることではなく、作業者のばく露を抑える働きだった。
設備の記録から、保守は実施されていた。一方、現在の部品の扱い方には、点検時の想定と合っていない箇所があった。
「設備が壊れている、と決まったわけではありません。今の使い方が、この設備で抑えられる範囲に入るかを確かめたいです」
労働衛生コンサルタントと丸山は、作業の図と集めた資料を、次の確認に使うことにした。設備業者には現在の作業位置を示して性能と変更案を確認し、測定機関には、何を扱い、どの条件で作業するかを伝えて評価の計画を相談する。杉本も、設備の記録と設置時の図面を用意した。

元に戻すだけでは続かなかった
杉本は、設置時の図面を開いた。当時は、今より短い部品が中心だった。後から増えた長い部品の置き場に合わせて、作業する位置だけが広がっていた。
「元の位置でやってもらうのが、いちばん早いですか」
丸山が聞くと、井上は部品を台の奥へ寄せた。
「ここだと端が台から落ちます。支えると、今度は加工するところが見えにくいんです」
手順を戻せば済む話でもなかった。
設備業者と杉本は、部品の支え方、フードと発生源の位置関係、周囲から入る空気の影響を含めて変更案を検討した。労働衛生コンサルタントは、その案で井上が無理なく作業できるか、別の位置へ粉じんを広げないかを、丸山と確認した。
工場長は、その検討と確認に必要な費用を認めた。検討中の納期は営業側で組み替える。課長が現場へ伝える説明にも、「換気扇が動くから再開」ではなく、再開までに何を確認するかを書いた。
測定・評価の条件を決める打合せには井上も参加した。測定機関から作業の長さを聞かれ、丸山が「一日中ではありません」と答えると、井上が補った。
「注文が重なる日は、この部品が続きます。短い部品へ戻るまでの時間も違います」
通常の担当表だけでは分からない情報だった。評価する条件には、作業する人が知る実態も必要だった。必要な保護具とその使い方、清掃方法も、対象の材料と作業に合わせて再確認した。
後日、この一台で井上が作業する条件について、変更した配置での設備の確認と、必要な測定・評価が行われた。結果の説明には、対象の材料、部品の長さ、作業位置と作業量も添えられていた。発生源で粉じんを捕まえる働きと、作業者のばく露を確かめた結果を読み、会社は確認した条件での再開を決めた。
丸山が、別の長さの部品についても同じように言ってよいか尋ねると、労働衛生コンサルタントが答えた。
「今回確認した条件と同じか、先に見ましょう」
それは、報告書に一度よい結果が書かれれば終わる仕事ではなかった。
再開した日、井上は長い部品を支えに載せ、加工前にその位置を確かめた。丸山も隣に立った。
「音は、前と同じですね」
「ええ。でも、今日は何を確かめたか、説明できます」
丸山は運転記録を捨てなかった。その横に、確認した作業条件を置いた。スイッチを入れることにも意味はある。ただ、そのチェックだけに、設備の働きまで背負わせないことにした。
自分の職場で考えるとき
局所排気は、粉じんなどが発生する場所の近くで空気を捕集し、人が吸い込む前に取り除くための設備です。適切な設計、設置、使用、保守がつながって働きます。フードの近くに風を感じることや、目に見える粉が減ったことだけで、健康上のリスクが十分抑えられたとは判断できません。[1]
確認したいのは、設備の稼働状況に加え、発生する物、発生する場所、作業者の位置、普段の使い方です。点検や測定の結果も、そのときの条件と照らして読みます。作業環境測定は実態把握や対策の判断材料を得るためのもので、目的に応じた測定計画が必要です。[2] 法定の測定・評価や設備の要件の適用は、対象の物質、作業などを具体的に確認します。
社内で作業を整理できることと、測定・設備設計を実施できることは別です。相談するときも、「換気が十分か見てほしい」に、現在の工程、困る場面、点検と測定の資料を添えると、必要な確認を相談しやすくなります。
講話などでは、「この職場で、設備を点検したときと、実際に作業するときの条件は同じだろうか」と考えてみてください。
参考資料
- 英国HSE Clearing the air: A simple guide to buying and using local exhaust ventilation (LEV)。捕集、使用、点検・保守の考え方を参照。英国の法定頻度などを日本の義務として適用するものではありません。
- 厚生労働省 作業環境測定。実態把握、測定計画、測定・評価の目的を参照。