詳しく伝える前に、使う場面を確かめる

仕事の配慮を伝えたら、上司から「もう少し詳しい情報がほしい」と言われた。診断書を見てもらえば分かるのか。それとも、別の情報が必要なのか。現場が動ける伝え方を考えます。

留守の日の照合

総務の藤井が、品質部門の山根課長へ仕事の調整について説明すると、山根は手帳を開いた。

部門の榎本は、製造でつけた品質記録と検査結果を照合している。これから定期的に通院で職場を離れる日があるため、産業医の意見を踏まえ、会社と本人で勤務の調整を話していた。

「次の通院日は分かりました。でも、毎回どこまで代わりの人をつければよいのか。戻った日にまとめて頼んでよいのかも分からなくて」

藤井は、渡した説明を見た。「負担に配慮する」という言葉はあるが、日々の担当を決めるときに使える内容になっていない。

「診断書の方が、分かりやすいでしょうか」

言いかけて、藤井は止まった。診断書には、担当を組むためとは違う詳しい情報もある。課長へ渡した資料に不足があるからといって、持っている書類を全部見せればよいのだろうか。

山根は、仕事を頼んでよいのか、控えた方がよいのかを決めるために、判断材料を求めていた。

「例えば、今日だと何に迷いますか」

藤井が聞くと、山根は照合待ちの記録を指した。不一致があれば製造へ確認し、解決するまで次へ回せない。途中の案件を代行者に渡すのか、榎本が戻るまで待つのかで迷っていた。

「病名が分かれば、休む日の代行がどのくらい必要なのか、見当がつくかと思って」

藤井にも、その判断はできなかった。名前を知っただけでは、必要な勤務の調整も、不在中に記録をどう扱うかも決まらない。山根の疑問には、医師に確かめる仕事の条件と、部署で決める代行の手順が混ざっていた。

本人が心配していた相手

藤井は、榎本と情報の伝え方を確かめた。医師からの書類を、課長へそのまま渡す話にはしなかった。

「担当を調整するために、課長にはどこまで何を伝えるか、改めて確認したいんです」

榎本は、通院のために勤務を変えることが分かるのは構わないと言った。ただ、部署の全員に詳しい治療の話が伝わるのは気になっていた。

「私がいない日に、何の治療なのかと聞かれたら、そのまま説明されるんでしょうか」

藤井は、社内の健康情報の取扱いを確認した。会社では、医療に関する書類を扱う担当と、仕事の調整に必要な情報を受ける相手を分けている。本人への説明も、そのルールに沿って行う。

「課長が担当を決めるための内容と、同僚が引き継ぐための内容は、同じにはしません。伝える案を確認しましょう」

榎本は、全て伏せてほしいと言っているのではなかった。休む日に誰が受け持つかが決まらないと、自分も安心して離れられない。仕事に必要なことは伝わってほしい。しかし、自分の知らないところで病状の説明が広がるのは避けたい。

その二つを一緒に考えなければならなかった。

課長に必要な情報

藤井は産業医に、榎本の照合作業と山根が迷っている点を伝えた。通院のある日に席を離れること、不一致の確認が続く場合があること、不在中の分を戻ってからまとめて任せようとしていたことも示した。

産業医からは、今回の榎本について、不在だった日の分を戻った日にまとめて上乗せする働き方は避け、普段の照合量も含めて担当を調整したいという意見が返った。藤井は、部署で考えた代行案を示し、その案で配慮事項を実施できるかも確かめた。

藤井は、山根へ渡す説明を榎本と確認した。勤務を調整する日程に、会社が実施する仕事の条件と、変更時の相談先を添える。医療に関する詳しい書類は、社内で定めた担当者が取り扱う。

山根には、その説明を使って伝えた。

「不在の日の照合は代行を用意し、戻った日にまとめて任せる予定にはしないでください。勤務の調整や作業を変えるときは、総務へ相談してください」

山根は、勤務の日程と照合の担当表を並べた。

「では、不在日の代行をこちらで組みます。戻った日にまとめて渡すつもりでした」

山根は、勤務の変更を相談する相手と、照合の代行を頼む相手を確かめた。前者については総務を通して医師に確認する。後者は部署の仕事を知っている自分が、作業を担える人と時間を確保する。診断名を知らなくても、今の分担を決めるために必要なことは確かめられた。

同僚には、何を伝えるか

次に、山根は榎本が不在の日の分担を部署へ説明した。

同僚への説明も、榎本と先に確かめた。そこには、代行する仕事と期間、対象の記録、引継ぎの場所、不一致が残った場合の確認先を入れる。山根が勤務を調整するために受け取った情報を、そのまま部署へ回す形にはしなかった。

「榎本さんが不在の日の照合は、こちらの担当で進めます。途中の案件もこの場所へ引き継ぎ、確認が必要なものは私へ持ってきてください」

「引継ぎに書かれていない質問が来たときも、課長へ持ってくればいいんですね」

同僚の一人が聞いた。

「はい。記録の食い違いは製造にも確かめます。確認できないものは、いつもの手順どおり保留にしてください」

山根が答えた。本人へ問い合わせを集めないためには、何を知らなくてよいかだけでなく、分からないとき誰へ聞くかも必要だった。

代行する同僚は、その日は自分の検査もあると伝えた。山根は検査の担当を別の人に移し、照合のための時間を確保した。それは榎本の健康情報とは別に、課長が対応する問題だった。榎本の病状を説明して理解を求めても、照合の時間は増えない。

榎本も引継ぎを見直した。「製造に確認中」とだけ書いていた記録に、どの数値が合わず、誰へ何を聞いたかを添える。健康上の説明を詳しくする代わりに、仕事について説明する場所がはっきりした。

不在の日に進んだ品質記録の照合を、資料を分けながら確認する従業員と課長。

受け持つ仕事に応じて、情報を分ける

  • 産業医等

    健康確保に必要な医療情報を確認

    • 仕事の条件を踏まえ、配慮について意見
  • 山根課長

    担当と時間を確保

    • 勤務の日程
    • 会社が実施する仕事の条件
    • 変更時の相談先
  • 代行する同僚

    品質記録の照合を進める

    • 対象となる記録
    • 代行する期間
    • 未解決の確認先

書類の取扱いは、社内で定めた担当・権限・範囲に沿って行う

不在の日に、どこまで進んだか

榎本の通院日、同僚は引き継いだ品質記録の照合を進めた。製造への確認が済んだものは完了とし、理由がまだ分からないものは、山根を確認先にして保留した。

次に榎本が出勤すると、完了した分と確認待ちの分が分けられていた。山根は、同僚には仕事の分担と確認先を説明したことを伝えた。詳しい治療の話を広げずに、不在中の仕事を進められた。

「ここから見れば、次に何を確かめるか分かります」

榎本は、返答の予定が追記された確認待ちの記録を手に取った。

藤井は山根と、情報の渡し方を振り返った。最初の説明は、詳しい医療情報を伏せていたというだけではない。仕事を決めるための情報まで不足していた。

山根は照合の担当表を見た。

「詳しく知りたいと思っていたんですが、知りたかったのは、これをどう分けるかだったんですね」

藤井は、配慮事項が変わったときの連絡経路を確かめた。今回の説明を、今後もずっと使える情報として置いておくのではなく、必要な相手へ更新が届くようにする。

診断書は、部署の共有棚には入れなかった。それでも、担当表は変わり、榎本が不在の日の仕事は動いた。

自分の職場で考えるとき

健康情報は、健康確保に必要な目的のために、適正に取り扱う必要があります。本人の同意があれば誰にでも全て渡してよい、と考えるのではなく、社内の取扱規程、受け手の役割、必要な情報の範囲を確かめます。法令に基づいて取り扱える情報と、本人の同意が必要な情報の区別にも注意します。[1]

医療職が詳しい情報を確認することと、部門長や同僚が仕事を調整することでは、必要な情報が違います。医師の意見を現場へ伝える際も、詳しい診断内容を広げる代わりに、措置の目的や具体的な仕事の条件が分かるように説明します。[2・3] 加工や判断が必要なところは、産業医など適切な担当者へ確認します。

本人には、誰へ何のために伝えるかを説明します。体調や仕事の条件が変わったときには、情報の更新も必要です。本文は、その会社のルールに沿った架空の例で、全社共通の共有範囲を決めたものではありません。

講話では、「この情報を受け取った人は、具体的に何をするのか」を考えてみてください。医療の詳しい説明が必要なのか、作業や勤務を決める条件が必要なのかを分けると、足りない情報と渡しすぎる情報の両方を見直せます。

参考資料

  1. 厚生労働省 労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針。目的、取扱いの権限と範囲、本人への通知、取扱規程を参照。
  2. 厚生労働省 健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針。管理監督者への説明と健康情報の保護を参照。
  1. 厚生労働省 治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)。同僚等への情報提供を必要な範囲とし、周囲への過度な負担にも配慮する点を参照。