小休止を取れない理由を、作業の流れから考える
「少し休んで」と伝えているのに、作業台から離れない人がいる。本人が遠慮しているのか。それとも、離れると困る仕事が残っているのか。休む人と、代わる人の両方から、小休止の取り方を考えます。
この注文だけ終わったら
午後三時を過ぎたころ、出荷責任者の北川が、梱包担当の佐野へ声をかけた。
「そろそろ、小休止にしましょう」
「はい。この注文だけ終わったら」
佐野は、開いた箱に商品を入れていた。注文票と品名を見比べ、数量を確かめる。足の裏が重くなってきて、片足からもう片方へ、体重を移した。
昼は作業を止めて休憩を取っている。それとは別に、午後にも仕事から離れる時間を設けた。しかし、その時間を取りにくい日が続いていた。
佐野が箱を閉じる直前、隣の台で作業していた同僚が尋ねた。
「こっちの注文、変更の連絡があったのは、この商品でしたっけ」
佐野は注文票を引き寄せた。変更を確認したのは自分だ。ここで答えないと、同僚の作業も止まってしまう。
北川は事務室へ戻りかけた足を止めた。さっきの「はい」から、もうしばらくたっている。

参考書では分かったつもりだった
その日の終わり、北川は佐野に聞いた。
「途中のままでも、休んでくれていいんですよ」
佐野は、少し考えてから答えた。
「途中で離れると、どこまで確認したか、戻ってからもう一度見直すことになります。誰かに聞かれたら、私が戻ったほうが早いですし」
「ほかの人に代わってもらうのは?」
「ほかの人も、自分の注文を見ていますよね。こっちの続きを説明して、向こうへ戻ってもらって……。それなら、私が終わらせたほうがいいかなって」
北川にも思い当たることがあった。注文の変更や確認待ちがあると、佐野へ集まりやすい。誰よりも流れを知っていて、答えも早い。頼りにしているうちに、佐野が離れた後の受け手を用意しないままになっていた。
北川は社内の衛生推進者も兼ねている。養成講習を修了して選任され、いまは衛生管理者試験の勉強をしていた。
その晩、参考書の「作業管理」の箇所を開いた。作業環境管理、作業管理、健康管理。三つの名前は覚えた。作業の方法や時間の配分も、衛生管理で考えることだと読んだばかりだった。
それでも、今日、自分がしたのは「休んでください」と声をかけることだった。
佐野が休めない事情は聞けた。では、何を変えればよいのか。北川は、参考書を閉じる前に、翌日の午後の予定を確認した。
椅子を置けば休めるだろうか
翌日、北川は佐野に、少し作業を見せてほしいと頼んだ。
昼の休憩から戻った佐野は、梱包台で箱を組み立て、商品を詰め、封をした。何箱か進む間に、同僚から注文の確認が入る。佐野は台に立ったまま答え、また箱へ戻った。
北川は、台の横に椅子を置くことを考えた。
「少し座れたら、違いますかね」
「座れるのは助かります。でも、ここにいたら、注文のことは聞かれると思います」
そう言われて、北川は手に持った予定表を見た。たしかに、佐野がそこにいれば、自分もつい尋ねるだろう。
「脚も疲れます。でも、途中の注文があると、休んでいても、どこまでやったかなって気になります」
北川が見ていたのは、佐野が立ち続けていることだった。佐野の話では、確認の担当を離れられないことも、小休止に入りにくい理由になっていた。
「休む前に、どの仕事なら渡せそうですか」
北川が聞くと、佐野は注文票を一枚取り出した。
「普通の注文なら、どこまで見たかを伝えれば。変更があったものは、説明に少し時間がかかります」
北川は、隣の担当者にも聞いた。
「続きを受け取るとしたら、何が分かればできますか」
「確認したところが分かれば。ただ、自分の途中の注文と混ざると怖いです」
北川は、一度にいくつも渡す案をやめた。まず、途中の注文を一つずつ、自分が受け取ってみる。それなら何が分からないかも確かめられる。ただ、その間の自分の仕事をどうするかが残った。
自分が代われば済むと思った
北川は社長に相談した。
「小休止の間、私が梱包と注文の確認を受けてみようと思います。でも、午後は配送先への返答と翌日の準備も重なっています。全部そのままなら、あとで私が取り戻すことになります」
社長は、午後の予定を一緒に見た。
「全員で止めるのは難しい?」
「止める時間を決めておけばできる日もありそうです。今日は、返答待ちの注文があります。まず交替で試してみたいです」
社長と北川は、通常の出荷量の日に試すことにした。小休止の間は、新たな注文変更の返答も北川が受ける。その時間に重なっていた翌日の準備は、前の時間帯へ移す。北川自身が休むときの受け持ちも、佐野とほかの担当者に相談した。
試行日の午後、佐野は一つの箱の横に、その注文票を置いた。
「品名は確認しました。数はまだです。変更の連絡は、この注文にはありません」
北川は注文票を見て、箱の中を確かめた。
「じゃあ、ここから数量を見ます」
別の注文について、佐野が「確認済みです」と言ったところで、北川の手が止まった。
「品名と数量、両方ですか」
「あ、そっちは品名だけです」
渡してみると、普段は一言で済ませていたところにも、聞き返すことがあった。その日の引継ぎでは、品名と数量を分けて伝えることにした。
隣の台から声がかかった。
「変更のことが分からなくなったら、どうします?」
「それは保留にします。先に進められる注文を進めて、佐野さんが戻ってから確認しましょう」
北川は、そこで一度、佐野を見た。
「休んでいるところへ、続きを聞きに行くのはやめます」
佐野は注文票から手を離した。

休めた人と仕事が残った人
試した日の午後、佐野は別室へ行った。出荷について尋ねに来た人には、北川が対応した。
佐野は椅子に座り、飲み物を一口飲んだ。最初は、台に置いてきた箱の中身を思い出していた。しばらくして、休憩室の窓が少し開いていることに気づいた。
作業へ戻ると、北川は引き継いだ注文を終え、次の注文票を見ていた。佐野は反射的に箱へ手を伸ばしかけたが、北川に確認した。
「これは、もう数も見ましたか」
「見ました。ここまで終わっています」
聞いてから、自分の台へ戻った。任せたからすぐに何も気にならなくなる、というわけではなかった。それでも、今日は小休止の間に呼び戻されなかった。
北川のほうは、予定を前へ移しただけでは収まらなかった。返答に時間がかかった注文があり、夕方になっても翌日の準備が残っていた。
翌朝、社長に聞かれ、北川は答えた。
「佐野さんは、途中で呼ばずに休めました。私も交替で休めたんですが、準備は昨日のうちに終わりませんでした」
社長は、残った仕事を確かめた。
「北川さんが毎日あとで埋め合わせるなら、このまま続けるのは難しいですね」
「はい。前にずらせば収まると思ったんですけど」
佐野が休めたことは、北川にとってうれしかった。一方、交替した間の仕事が消えたわけではない。自分が代われば済む、と考えていたところは見直さなければならなかった。
社長は、次の試行期間は翌日の準備の一部を自分が受け持つことにした。
「まずこれで、普通の日がどうなるか見ましょう。注文が集中する日は、応援を入れるか、出荷の締切を見直せるかも考えたいです」
北川は、どちらなら足りるか、まだ答えられなかった。出荷の記録から仕事が重なる時間帯を確かめることにした。佐野とほかの担当者には、作業を続けていて負担を感じる場面や、小休止に入りにくかった注文を聞く。自分の準備が終わる時刻も一緒に残す。
その週の終わり、佐野は北川に言った。
「休む前に全部終わらせなくてもいいのは、助かります。変更が重なる日は、まだ渡しにくいですけど」
北川は、来週の出荷予定を開いた。佐野が台を離れる時間を考えると、自分の予定も一緒に見なければならなかった。
休息の間、仕事は誰へ移る?
| 担当 | 試した日の小休止中 | 戻った後 |
|---|---|---|
| 佐野 | 途中の注文を渡して、別室へ | 戻ったら確認して再開 |
| 北川 | 梱包と注文変更の連絡を受ける | 前へ移した翌日の準備が、夕方に残った |
翌朝、社長が残った準備を確認。次の試行では、その一部を受け持つ
小休止を自分の職場で考えるとき
ここでいう小休止は、作業の合間に仕事から離れ、休息するために設けた短い時間です。この話では、昼の休憩とは別に扱っています。小休止という呼び名だけで、法令上の休憩に当たるかどうかが決まるわけではありません。労働基準法上の休憩は、労働から離れることが保障された時間です。作業が途切れても、対応を待つ手待ちの時間は含まれません。[1]
北川が参考書で読んだ作業管理は、作業の方法や時間などを、働く人の健康に配慮して見直す考え方です。[3] 小休止だけを増やして、作業中の姿勢や動きの負担をそのままにしてよい、ということではありません。厚生労働省の腰痛予防対策指針でも、立ち作業について、姿勢や作業台などの見直しとともに、小休止や休息を取り入れる考え方を示しています。[2]
自分の職場でも、同じ姿勢や動きがどれくらい続くか、何が休息を妨げているかを確かめます。何分ごとに何分休めば十分かを、すべての仕事に共通する数字だけで決めることはできません。この話でも、佐野が一度離れられたことから、身体の負担まで十分に減ったとは判断していません。
「小休止を取りましょう」で話が終わってしまうなら、取りにくかった日の作業を、本人と責任者で一緒にたどってみます。離れる直前に残っていた仕事、休んでいる間に求められる対応、交替した人に後から残った仕事。そこまで見えると、作業方法を変えるのか、受け持ちを変えるのか、人や時間を確保するのかを比較しやすくなります。
衛生委員会などでこの話を使うときは、「うちの職場では、佐野さんが離れたあと、何が、誰のところに残るだろう」から話してみてください。休んだ人の感想と、受け持った人の実際の負担を、両方聞くことが次の判断につながります。
参考資料
- 厚生労働省 休憩時間を分割する場合どのようなことに注意が必要でしょうか。休憩と手待ち時間の区別を参照。
- 厚生労働省 職場における腰痛予防対策の推進について。立ち作業における作業姿勢、小休止と休息などを参照。
- 厚生労働省 労働衛生の3管理。作業管理の考え方を参照。