仕事を替えたのに、手の疲れが減らないのはなぜ?

豆を量り、袋の口を閉じ、ラベルを貼る。袋が仕上がっていく時間を、店主は嫌いではなかった。計量を終えて別の仕事へ移ったつもりでも、手元を見ていると、似た動きが続いていた。

封をしたコーヒーの袋を左手で支え、右手で正面のラベルを確かめる店主。作業台には計量器と袋、奥には梱包台がある。

袋が並ぶと店らしくなる

ラベルを貼り終えた袋を、店主は一つ立てて置いた。隣の袋も、同じ向きに直す。

豆を焼いている間は、色や香り、時間ばかり見ている。それが袋に入り、自分の店のラベルが付くと、ようやく誰かのところへ届ける物になる。並んだ袋を見るのが好きだった。開業したばかりのころ、最初に撮った商品写真も、こうして何度か向きをそろえてから撮った。

横の梱包台には、次の発送に使う箱がある。テープは手前、空箱は脇の棚。資材を途中で補充するのは相変わらず面倒だが、箱を開くたびに物をどけることはなくなった。

そこへ並べる袋を作る仕事は、まだ一人でしていた。

店主は同じ銘柄の豆をまとめて量り、袋の口を閉じてから、ラベルを貼っていた。一袋ずつ道具を替えるより、同じことを続けた方が早そうだった。計量中は数字を確かめるので、気も張る。ラベル貼りへ移ると、少し違う仕事に替われた気がした。

もう一袋貼れば、手前の列がそろう。次の袋へ手を伸ばしかけて、店主は左手を開いた。さっきの袋を支えていた指に、思っていたより力が入っていた。貼るのは右手なのに、左手もずいぶん働いている。

貼る手のほかに支える手があった

いつもの動きを、もう一度たどってみた。台紙を左手で持ち、右手でラベルをはがす。台紙を置き、左手で封の済んだ袋を取る。正面をこちらへ向け、位置を見ながら貼り付ける。

その間、左手は袋を支えていた。ラベルの端をなでている間も、最後に傾きを見ている間も。袋を置けば手は離れるが、次の一袋を取ると、また同じ持ち方になる。

ラベルを貼る右手の動きばかり気にして、支えている左手はあまり見ていなかった。

その前の袋詰めはどうだっただろう。容器で量った豆を袋へ移すときには、左手で袋の口を開き、右手で容器を傾けていた。封をする前には、両手で袋の口をそろえる。道具は替わっても、袋を持つ、つまむ、向きを整える仕事は続いていた。

仕事が替わって気分が変わったことと、手を休めたことを、一緒に考えていたのかもしれない。

左手で袋の口を開き、右手の容器から量った豆を移す店主の手元。
封止前に両手で袋の上端をつまみ、口をそろえる店主の手元。
ラベルを貼る場面。左手で封をした袋を支え、右手でラベルを貼り、表面をなでている。

試しに、封をした袋を台に寝かせてみた。手を離せるが、豆の入り方で表面が少しふくらむ。貼る位置を確かめようとすると、結局、片手を添えたくなる。

手に取るのは、正面が見え、袋の向きを調整しやすいからだった。

ラベルを適当に貼ってよいとは思わない。袋を受け取ったときの見え方は、これからも大事にしたい。ただ、そのために袋を持ち続けるやり方しかないのかは、まだ考えていなかった。

置いたまま貼れるだろうか

店主は、さっき横に寝かせた袋をもう一度台へ置いた。立てて正面から見るときと、寝かせて上から見るときでは、ラベルの位置の見え方が違う。袋を持ち上げたくなる理由は、手を離せないからだけではなかった。

貼る前の袋を一つ、いつもと向きを変えて置く。左手を添える場所を変え、右手でラベルを近づけた。袋は転がらなかったが、表面のふくらみで、端が少し浮いた。

「これだと、受け取ったときに気になるな」

店主は手を止めた。手の負担を減らしたくても、仕上がりは守りたかった。

次は、袋の底に豆が偏らないよう、置く前に形を整えた。机に載せた袋を軽く押さえ、ラベルを貼る。正面の向きは、貼り終えてから一度だけ持ち上げて確かめた。

いつものやり方では、ラベルを近づけてから、表面をなで、傾きを見るまで持っている。今回は、その間の重さを台が受けていた。左手が何もしなくなるわけではない。それでも、袋を握り続けていたところに、離せる時間ができた。

店主は一袋で決めず、同じ銘柄の袋をいくつか並べて試した。置いて貼った物と、持って貼った物を、いつもの商品棚へ並べる。離れて正面から見ると、寝かせて貼った方に傾いた物が一つあった。手元ではそろったつもりだった。

台の上で見る位置を少し変え、もう一度貼る。置き方を変えることと、仕上がりを確かめることは、同時に考えなければならなかった。

作業名より手の仕事を見る

その日の袋を作り終えるまで、店主は新しい貼り方を混ぜて試した。袋の形が安定した物では置いたまま貼れた。豆の量が違う袋では、同じ置き方だと正面を見にくい。すべてを一つの方法へ替えるのは、まだ早いと思った。

翌日、作業の準備をするとき、ラベルを貼るための面を少し空けておいた。袋を寝かせて置く場所がないと、結局、昨日までと同じ持ち方へ戻る。量った豆の容器や未使用の袋を、貼る面の外へ寄せる。

店主は、仕事を替える順番を考えていたメモも見直した。

計量、封止、ラベル貼り。それぞれ別の仕事だった。けれど、左手が袋を持つ時間を並べると、名前だけでは見えなかったつながりがあった。

作業を替えることは、気分を切り替える助けにはなる。それだけで、同じ手の仕事が減ったとは限らない。先に見るのは、次の仕事の名前ではなく、そこで手が何をしているかだった。

その日の最後の袋は、台に置いたまま貼れた。仕上がりを確かめて棚へ置き、店主は両手を離した。台の空いたところには、明日も同じ置き方で試せる場所が残っていた。

自分の職場で考えるとき

工程を替えても、同じ身体部位を似た力や姿勢で使い続けるなら、負担が十分に変わるとは限りません。作業名だけでなく、動き、力を出す時間、姿勢、作業の継続時間などを見比べます。[1・2]

この話では、ラベルを貼る右手に加え、袋を支える左手の仕事を見ました。物を支えたり、道具を握ったりするために力を出し続けることも、見直す対象です。作業方法を考えるときは、品質や扱いやすさの条件と一緒に、持つ必要がある場面と、台や道具に任せられる場面を確かめます。[3]

台に置けば、どんな仕事でも負担が減るという意味ではありません。取り出しにくくなる、見にくくなる、別の動きが増える場合もあります。ここで描いた試行は架空の一例で、個別の作業リスクや身体の回復を評価したものではありません。

講話で使うなら、「仕事の名前は違うけれど、同じ手や身体の使い方が続いている場面はないだろうか」から、自分たちの作業を見比べてみてください。痛みやしびれなどの不調がある場合は、作業の調整と併せて医療機関等に相談します。

参考資料

  1. HSE Risk factors。反復、力、姿勢、時間などの要因を合わせて見るための資料。
  2. HSE Reducing duration of exposure。同じ身体部位や似たリスク要因を含む作業への変更では、十分な休息の機会にならない場合があることを参照。
  3. HSE Reducing force。品物を支えるなどの持続的な力と、作業の置き方の見直しを参照。日本の法的要件としてではなく、作業を観察するための実務資料として用いています。