注文が増えてきて、店主さんは1人目を採用した。
焙煎は任せない。まずは計量、封止、ラベル、梱包。いわゆる“回す”側から。
ある日、夕方のピーク。
・焙煎はちょうど冷却中
・梱包台には伝票の山
・足元には段ボールの切れ端
・そして、新人さんの手元では、袋の封がうまくいかない
「これ、どうすれば…」と小さな声。
でも店主さんは、焙煎機のほうを見ながら「そのまま続けて!」と返す。
新人さんは、焦って“いつも通りっぽく”手を動かす。
封止の熱で、指先が「あっ」となる。
袋が少しズレて、慌てて押さえ直す。足元の段ボールを踏みかけて、体が一瞬よろける。
その瞬間、事故の種が揃う。
新人が怖いのは、ミスじゃない。
「止められない状態」で、手順が曖昧な作業を続けること だ。
「止めていい」を許可できていないと、境界線も手順も“実装”されません。
ここが、雇った瞬間に事故りやすい理由です。
焙煎所の話だけど、本質はどの現場も同じ
新人は、まだ「危険予知(KY)」が育っていません。
※ここでいうKYは“空気を読む”ではなく、危ないポイントを先に見つける話です。
ベテランが“空気”で回している部分が、新人には見えない。
「見て覚えて」が成立するのは、前提を共有できている人同士だけです。
新人には、その前提が見えないまま残ります。
だから新人はこうなる:
・分からないけど、忙しそうだから聞けない
・止めたら迷惑かけそうで止められない
・“なんとなく”で進めて、結果的に危ない方へ寄る
この状態を止めるために、まず決めたいルールは1つです。
止めてOK。むしろ止めてくれ。
「安全第一」みたいなスローガンより強い。
なぜなら、新人が事故らないために必要なのは“行動の許可”だから。
停止の権限は新人にもある(誰でも止めていい)。
「止めてOK」を文化にするための3点セット
“言っただけ”だと、現場は1週間で元に戻ります。
「止めてOK」は、仕組みにすると回ります。
1) 止めていい条件を、3つに絞って言語化する
全部を網羅しようとすると失敗します。新人は覚えられない。
まずはこの3つに絞って整理します。
・いつもと違う(音・におい・熱・動き・表示・感触)
・手順が曖昧(自信がない/判断が割れる/初めて)
・体が危ない(無理な姿勢/無理な重量/滑る・つまずく)
これを合言葉にすると、新人は止めやすい。
「“いつもと違う・自信ない・体が危ない”は止めていい」
焙煎所なら、特に「いつもと違う」「何か違う」は強いです。
熱、煙、排気、粉じん、詰まり――“いつも通り”が崩れた瞬間に事故が起きます。
2) “止めた後の手順”を固定する(止めたら詰む、をなくす)
新人が止められない最大の理由はこれ。
止めたら、次に何をしていいか分からない。
だから、止めた後は一本道にします。
止めたら、この3手順
- 手を止める(安全な場所に退避)
- 声をかける(「止めました。理由は◯◯です」)
- 1分で状況共有(写真1枚/メモ1行でOK)
ここで重要なのは「写真1枚/メモ1行」。
報告を重くすると、誰も止めなくなります。
3) “止めた人が得する”運用にする(褒める・守る)
止めた人が損をすると、文化は続きません。
・止めたら怒られた
・止めたら忙しくなった
・止めたら「空気読め」と言われた
これが1回でも起きると、新人は二度と止めません。
だから、最初の1か月は、少し露骨でいい。
止めたら、まず褒める。判断の正誤は後。
「止めた判断が合ってた/間違ってた」は、その次。
先に褒めるのは、“止める行動”を強化するためです。
そのまま貼れる「止めてOK」掲示文
現場に貼るなら、長文は読まれません。これくらいが強い。
止めてOK(むしろ止めてください)
・いつもと違う(音・におい・熱・動き)
・手順に自信がない(初めて/迷う)
・体が危ない(無理な姿勢/重い/滑る)
止めたら:①止める ②呼ぶ ③写真1枚(難しければメモ1行)
迷ったら
そのまま止めて
呼んでいい
店主さん、忙しい時ほど、これを言う!
新人に声掛けする短いセリフを、あらかじめ用意しておくと、現場がキレイに回ります。
・「忙しいから止めないで」→ “忙しい時ほど止めて。”
・「こんなので止めていいんですか」→ “その判断で大丈夫。”
・「怒られそうで…」→ “止めて怒られることはない。止めない方が困る。”
・「今、手が離せないです…」→ “OK、30秒待って。止めたまま触らないで。”
明日やること(3つ)
- 止めていい条件を3つに絞って、言葉にする(いつもと違う/自信ない/体が危ない)
- 止めた後の一本道を決める(止める→声かけ→写真1枚メモ1行)
- 止めた人を先に褒める(正誤の議論は後で)
※本連載は、複数の現場の“あるある”を詰め込んで一般化し、分かりやすさのために再構成した架空の設定です。
